第34章 共喰い 其の肆
「私……先程は大変失礼を……」
「あァ……お姉さん。通話の許可を有り難う」
先刻ぶつかった、顔の赤かったナースと
紬には判る、冷ややかな声音で話す兄の会話を聴きながら窓の外の猫から目を離さない。
「えぇ……その若し宜しければ先程のをもう一度……今度は個室で」
「気が向いたらね」
その会話に少し苛立ったのか。
紬が太宰の病衣をチョイチョイと引っ張った。
元より電話に集中していた太宰が、
紬の方を見て、自然と窓の外を向く。
視界に捉えた猫。
そして、その口にくわえられた何かに気付いたのだ。
煮干し……?
「!あの……っ、何故、妹さんがベッドに……」
「私の心配をして寝不足だったんだよ。もう少し寝かせて」
「あ、はいっ…勿論です」
「声が大きいんだけど」
「あっ………!」
窓の外の猫に集中している兄の代わりに、
兄に成り済まして返事をする紬。
空気が読めたのか、はたまた先刻の行為を欲しているのか。
看護師は太宰の好感度を上げたい一心で紬の横臥を許可して、退室していったのだった。
「矢っ張り帰ろうかな」
「え゙」
身体を起こして太宰の代わりに窓を開け、猫に近付く。
猫は逃げずに口にくわえていた煮干しを置いた。
それを紬が手に取るまで大人しく待ち、確認が終わると去っていったのだった。
その煮干しを兄に渡す。
「!」
逃げられまいと
煮干しごと、紬を拘束してから太宰は煮干しの観察を始めたのだった。
「「!」」
やけに大きい煮干しを割り、中から出てきた骨以外の モノを手にして2人は笑った。