第34章 共喰い 其の肆
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紬は一本の注射をポケットから取り出した。
中には無色透明な液体。
「真逆、中也に会ったんじゃないよね?」
「会ってないよ。大体、治に黙って行動したことに関しては先刻の絞首で充分反省の意を示した積もりだけど」
「反省してたの?あれ。喜んでたのに」
その注射を空打ちしてから点滴の管に追加で投与する。
投与しているのは裏で取引されている「違法薬物」の一種。依存性が高く、使い続ければ幻聴などの作用もでるが痛覚を鈍らせる効果も持つ。
ポートマフィアに侵入した際に、どさくさに紛れて拝借してきたモノだ。
「治に殺されるなんて本望だからねぇ」
「私は『兄さん』呼ばわりされて苛立ったと云うのにねぇ」
「一瞬と云えど、私が治の元から去ることを疑ったでしょ。相子」
「……。」
紬の言葉に太宰は黙った。
相子の訳がないのだ。
もう二度と離れないと誓い合った。
しかし、それを否定した推測に至った。
故に、一定の距離を置いた。
言い換えれば―――世間に溢れている『兄妹』の括りに収まる事を示唆する呼び方を紬はした。
兄妹ではあるけど、兄妹の関係でいる気など無い太宰にとって絶対の『禁句』―――。
「紬」
「ん?何だい?」
「今日は我慢する。1週間は無理」
管の液体が太宰の体内に収まった事を確認して、注射の後始末をする。
「……考えておく」
包帯を巻いて着替えを済ませて。
2人は病室を後にした。