第34章 共喰い 其の肆
ケホケホと数回、咳き込んで息を整える紬の頭を撫でて。
紅くなった首筋に唇を這わせて吸い上げる太宰。
「あと少しだったのに」
「冗談。本気で殺すわけ無いでしょ」
絞めた痕とは違う紅い痕を残して。
ヘナヘナと紬の胸の中に崩れ落ちた。
力任せに紬を引っ張ったせいで治まっていた腹部が痛みを再主張し、紬を押し倒した際に外れてしまった点滴痕から血が出始めたのだ。
「考えなしに動くから」
「……態とのくせに」
ケラケラ笑いながら頭を撫でる紬に唇を尖らせて文句を云う太宰。
太宰を寝かせてから慣れた手つきで点滴を射し直す。
「私に内緒で魔人と会っていたね?」
大人しく処置されながら太宰は紬に話し掛けた。
「会ったんじゃなくて、遭ったんだ」
「……。」
血で汚れた包帯を外して、ポケットの中から取り出した真っ白の包帯を巻き付ける。
「マフィアの『異能』が完璧に把握されている。恐らく探偵社の人間のも、ね」
「不利な状況は相変わらずか」
やれやれ、と。
溜め息を吐いて云う。
包帯を巻く作業を終えた紬は点滴とは反対の。窓側の方に移動してから太宰に背を向けてベッドに腰掛けた。
「―――魔人に付いていったかと思った」
「……。」
紬を自分の方に引き寄せて、低い声で囁く。
兄の顔を見上げて、そして胸に顔を埋めた。
「それでも善かったんだよ。本音を云えば……そうしようとさえ思った」
「……。」
その頭を撫でてやりながら太宰は考える。
魔人―――フョードル・ドストエフスキーの目的は
『異能者のない世界を創る』ことだった。
『異能』は『罪』。
その目的と考えを、紬にも告げたのだろう。
武装探偵社とポートマフィア。
その所属者の異能を凡て把握していた事を前提に考えれば、だ。
紬の異能――『終焉想歌』は、その中でも『重い罪』と考えるのは妥当だろう。
魔人との接触。
故意であれ事故であれ、太宰の推測は正しかったのだ。
問題なのは、紬自身もそう考えていると思っての接触だったのか否か、だが―――。