第30章 Addict
「でも――………」
樋口が色々なことを考えていると小さい声で銀が何かを云った………気がした。
「今、何か云った?」
「いえ、何も」
銀は帰る支度をしはじめ、2人は別れた。
そんな道中。
銀は先程の回想をした。
紬幹部が、頭を撫でるなんて―――――
今まで一度もなかった行為。
と云うより、マフィアにいる頃の紬は誰よりも怖かった。
それは、紬の兄ですら優しいと感じるほどに。
これは銀だけが感じていたことではないだろう。
現に、自分の兄ですら、太宰よりも紬との訓練の時の方がボロボロになって帰ってきていたのだから。
否、無理もない。『只の子供』を黒社会の人間に仕立てなければいけなかったのだ。
それを考慮すれば、相等だった………と今では思う。
それならば彼等を育てたのは………?
永遠の謎であるこの問題に思考がいき、銀は頭を軽く振ってその思考を晴らした。
何はともあれ彼等は変わったのだ。
撫でられた頭に触れて。
銀は微笑むと兄の待つ家へと歩いていったのだった。