第30章 Addict
項垂れる花袋を挟むように歩く敦と国木田。
そんな3人を見えなくなるまで見送って。
「……紬幹部は行かないんですか?」
「かっ…!幹部!?」
「その呼び方はよし給え。私はもうマフィアじゃないから」
「!?」
銀の言葉に苦笑して頭を撫でる。
その行為に驚く銀。
「いやぁーにしても綺麗になったねぇ。本当に見違えるほどだよ」
「そんな……」
顔を赤らめて答える。
「でも良かったのかい?詳しくは聞いていないが先程の状況を見れば、恐らく彼はとても役に立つ『異能力者』だよ?」
「「!」」
紬の突拍子の言葉に2人が驚く。
その顔を見てクスッと笑って紬は2人に背を向けた。
「まぁ、『マフィア』としてはまだまだかな」
じゃあね、と手をヒラヒラさせて去っていった。
「「……。」」
恋慕さえも利用しろ―――。
『使えるものは何でも利用する』
マフィアの幹部を離れた今でさえ彼女は変わったりしていないのだと思い知らされた。
その背中を見えなくなるまで。
否、ただ呆然と眺める2人。
「……にしても意外でした」
「?」
暫くの沈黙に堪えかねたのか、本当に知りたいのか。
樋口がポツリと口を開いた。
「銀があの人――太宰紬とはこんなにも喋るなんて」
「……。」
普段が寡黙すぎるからそう思うのだろうけど、とも樋口は思ったが。
「紬幹部は…私を拾って、今の暗殺術をはじめ、マフィアの凡てを教えてくれた方なんです」
「!?」
ポツリと紡がれた言葉に思わず目を見開くことになった。
そして、樋口はハッとした。
そうか!だから芥川先輩もあの時―――!!
樋口は白鯨での戦闘後のことを思い出したのだ。
何故か、部下だけしか帰ってこずに心配していたところに『彼女』から無線が入って慌てて向かったあの時。
到着した私が目にした光景。
芥川が彼女に向けたモノは
『裏切り者』に対しての『殺意』などではなく
『何か』に対しての『懇願』にも見えた――――。
樋口は今日、知ったのだ。
その『何か』は、元上司などの型に填まった役職に依るところではない。
太宰兄妹は………芥川兄妹にとって、此の世凡てにおいての『師』だったのだ、と。