第30章 Addict
「何と云うか……人虎に輪をかけて望み薄そうな方ですね」
「ハッキリ云うねぇ」
「あはは…」
紬は笑いながら2人のやり取りを見て、敦が相槌代わりに笑って応じる。
「何をう!想いの深さならば誰にも負けぬ!」
花袋はビシッ!と指を指して続ける。
「第一 貴君はポートマフィアだろう!この花袋 探偵社を辞したと雖も犯罪者と馴れ合う心算はない!」
「人虎 何故彼は彼方を向いて怒っているんです?」
誰も居ぬ方向を指しながら話す花袋を見て樋口は敦に説明を求めた。
「ふーん。『犯罪者』ねぇ…」
「花袋は純粋なだけだ。悪気がある訳じゃない」
紬の呟きに国木田が息を吐きながら告げる。
それを聞いて、ヘラッと笑った。
「別に、心配せずとも何とも思ってないさ。優しいねぇ国木田君は」
「……。」
紬を見て、小さく息を吐くと花袋たちの方に視線を戻した。
そのタイミングと同じときに敦が何かに気付き、指をさした。
「あ、居た」
「「何ィ!?」」
バッと勢いよく敦の指す方向を振り向く花袋と樋口。
「うおぁわぇな な 撫子じゃああ!!」
間違いなく、捜し人だった事に盛大に驚く花袋と
「洗濯屋から出てきた!ではあれは先輩の衣類!?色々けしからん!」
最早、妄想の域で殺気だつ樋口が騒ぎだす。
「もはや恋文作戦など貴にならない!私が直接天誅を―――!」
ジャ!っと構えたのは愛用の銃。
勿論、銃口は『撫子』に向いていた。
さすがにこれだけ騒がしければ気付くだろう。
『撫子』が此方を振り向く。
そして。
カーーーーーッ!と一気に顔を紅潮させて走り去ったのだ。
「逃げた!?おのれ逃がすかっ!」
樋口が拳銃を掲げたまま追い掛ける。
「この状況……結構拙いんじゃ」
「……!」
「おい花袋!?」
敦の言葉に感化されて花袋も走って追いかけだした。
「僕たちも急ぎましょう!」
「そんなに急がなくても大丈夫だよ、敦君」
「え?」
ニコッとわらって歩き出した紬に国木田と敦も付いていく。
そして目の前の現れた惨劇に頭を抱える国木田。
「おや。何やらとんでもないことになっているよ?」
「はぁーっ花袋の異能だ」
紬は機能していない信号機を見る。
「…成る程。『電網破り』ねぇ」