第30章 Addict
「とは云え……教えると云いましても実は僕にも女性の氏素性は判らなくて……恋文を渡すべく捜しているんです」
「恋文?」
敦の言葉に樋口が大きく反応する。
「あの女に渡す?貴方が?」
「ええ………まぁ」
「ナイス‼」
キラキラとした目で敦の肩を掴んで喜ぶ樋口。
「へぇーなんだか愉しそうなことをしているねぇ。一体、どんな女性だい?」
2人が話しているから国木田に話し掛ける。
国木田が敦に何か云って受け取ったものをそのまま紬に渡した。
その写真を見て、紬は笑った。
「へぇー」
写真を国木田に渡す。
「?やけに機嫌が良いな」
「うん。こんなに面白い事に遭遇するなんて今日の私はついてるよ」
紬は上機嫌で答えた。
こうして4人は件の女性を捜すべく歩き始めたのだった。
「実に形而上的な問題です。何故男性は何時もあの型の女性に靡くのです?」
3人の前を嘆きながら(?)スタスタと歩いている樋口。
その嘆きを何とも云えない顔で聴いている男性陣とうふふと笑いながら聴いている紬。
その語らいの勢いは留まること無く、くるん!と振り返って敦の方を向いても止まらなかった。
「とは云え私は貴方を応援してます人虎。女性は強く押し切られるを望むもの!心で当たりなさい。でもその前髪はきちんと切るべきですね。服も新調しなさい。あと序でに目付きを鋭くして近寄り難い雰囲気を出せば完璧です」
「おやおや。誰の事を想像しながら語っているんだろうねぇ」
「!?」
クスクス笑いながら云った紬の言葉で、一瞬にして樋口は顔を赤らめる。
「あああっああ貴女には関係ないでしょ!」
完全にからかいモードの紬に手をバタバタさせて抗議する樋口。
「恋文を渡すのは彼ではないぞ」
その後方から、突如として掛けられた声を一斉に皆が注目した。
「花袋」
「我が恋熱の行方、見届けぬ訳にはいくまい」
「誰だい?彼」
勢いよく云った男を見て紬は敦に説明を求める。
元探偵社員という情報と、小声で『電網破り』ということを紬に告げた。
「ふーん」
「何だ。恋文の主は貴方ですか」
樋口は花袋の方を見たままで2人のやり取りには気付かなかったようだった。