第29章 父の肖像
太宰の声でハッとする。
向けられた顔に映るのは――――怒りだ。
「それ以上のことを考えるなら怒るよ」
「反省する」
紬が即答すると「解れば良い」と云わんばかりに繋いだ手を解いて頭を撫でた。
「然し、矢張り他人の死に触れても直りそうにないよ」
太宰の手が元の位置に戻るとその腕に自身の腕を絡ませる。
「別にそれを直せなんて云ってないでしょ。私は『私と居なくても良かったのでは』という想像を一瞬でもさせないために連れ出したのだから」
「お見通し、か」
紬は苦笑して腕の力を込める。
「離れる気はない―――それは生まれるところからやり直しても絶対に変わることは無いよ」
「うん」
兄の言葉に笑顔で返す。
そして2人は探偵社へと戻っていったのだった。