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【文スト】対黒

第29章 父の肖像


探偵社の下にある喫茶店「うずまき」

「此処の紅茶は絶品だねぇ」

「本当に」

紅茶を飲みながら携帯電話をチラリと見る。

「そろそろ推理が行き着く頃かなー」

「治」

「何だい?」

カチャリと。持っていたカップを置いて太宰に話しかける。

「何の心算だい?」

「別に?」

太宰は携帯電話を手に弄びながらサラリと云う。


「此れを機に、反省した方が良いかい?両親を殺した事」

「紬」

兄に鋭く睨まれて。
紬は口を閉ざす。


「そんな『詰まらない事』は如何でもいいって何時も云ってるでしょ」

「……。」

紬はフイと視線を外して紅茶を飲む。

そんな時、手にある携帯が着信を告げた。
画面には『谷崎』の文字。
予定通り、事が進んだようだ。

紬は太宰が電話に出ている間に離席して会計を済ませる。
そして先に店の外に出ると太宰も直ぐに出てきた。


「最近殺しを容認し過ぎたから、そういうと思っていたんだよ」

「治が止めないから」

「反省してる」

「……。」

苦笑して紬の手を繋ぐ。



紬は産まれてくる際に兄と手を繋いでいたらしい。
正しくは、兄の方が紬を離さなかったそうだ。取り上げる際に離れた瞬間、事は起こった。

産まれてきた時点で母親を、取り上げた医師を。
自覚無く、何人もの命を奪ったのだ。

凡て、原因不明で処理されたが
紬の『終焉想歌』は産まれてくる時点で備わっていた、と云うこと。

自覚をしても兄の傍に居ないと―――関わった人間が次々と死んでいく。


―――色々な人の運命を狂わせたのだ。

そして。

一番の被害に遭っているのは間違いなく、今隣にいる兄だろう。


紬の『終焉想歌』は自分の『死』だけは認めない。
兄、治の『人間失格』は紬の『死』を受け付けない。

だから、2人は『自殺』に拘るのだ。


繋がれた手を見ながら紬は思った。

私が『終焉想歌』を持っていなければ――
間違いなく正しい生活だった筈だ。

世界に絶望することもなかった。

自殺に拘る事もなかった。

マフィアに入ることもなかった。

治が傷だらけになることもなかった。


四六時中一緒にいなくて済ん―――……


「紬」
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