第28章 己ノ終焉ヲ想ウ、歌
コトッ
「?何だそりゃ」
「発信器と盗聴器」
「……。」
「中也に接触した時点で止めてあるよ」
眉間にシワを寄せた表情の意を汲み取って、急かさず言葉を紡ぐ。
「で?何を聞きたいんだよ。其れを仕掛けた犯人か?手前の大好きな兄貴だ」
「そんなことは判っているよ。私が知りたいのはその『理由』だ」
「はあ?」
「此処まで治に拘束されたことなんか無い。私は一体、治に何をしたんだい?」
「……。」
紬の無表情が崩れる。
兄を思うときにだけ見せる人間らしい表情。
中也の調子を狂わせるカオ、だ。
「4年ほど行方をくらませた」
長い溜め息の後に答えた。
「は?」
予想外の言葉にまたもや無表情に戻る紬。
「だから4年ほど何処かに消えてたんだよ、手前は」
「……私一人で?」
「そう云ってんだろ」
「何故?」
「俺が知るかよ。元々、手前等は組織を裏切った。その為の姿眩ましだと思っていたが…お前の行方不明の噂は結構有名だったぜ」
「……。」
紬が考え込む。
「喧嘩でもしたんだろ。彼奴の元を手前から離れたんだから」
「治と私が喧嘩……」
掌の上で仕掛けられていた機械を転がしながら呟く。
「中也は私と治が喧嘩してるところ、見たことある?」
「はあ?あるに決まっ………いや、1回もねーな」
「だろうね。喧嘩したこと無いから」
紬は溜め息を着いた。
「治がどんな理由でマフィアを抜けたのか知らないけれど、私がその道を共に歩くなんて不可能なのに」
「……。」
突然、中也が紬の頭を乱暴に撫でる。
「止めて中也」
キッと睨み付けて、手を払い除ける。
「手前がマフィアに戻りたいなら席は空けてやる」
「そう云えば幹部様って呼ばれていたね。出世おめでとう」
グイッ
「話そらすんじゃねーよ、紬」
胸倉を掴み、自分の元へ引き寄せる。
「中也の方こそ、気安く触るなと云っているのが未だ判らないのかい?」
「関係ねーよ。怯えてんのは手前だけだ」
「……。」
パッと離して、自分の隣に座らせる。
そして
「選べよ紬。太宰の元へ帰って合わない生活を送るか、俺と共に元の生活に戻るか――…」
真っ黒な笑みを浮かべて、云った――。