第28章 己ノ終焉ヲ想ウ、歌
「あ゙?」
男が不機嫌そうな声を上げて紬に注目した。
国木田が慌てる素振りを見せる。
「………太宰………否、紬の方か?」
「!?」
「ふふっ。中り」
男―――中也の顔が呆れた顔に変わった。
「何だぁ?そのちんちくりんな格好は」
「何やら異能操作を受けたようでね。姿も記憶も10年前に戻されてしまったのだよ」
「へぇ……ってことは彼奴等が云ってたのは手前の事か」
「!」
紬の眉がピクリと動く。
会話が途切れた瞬間を狙っていたのか。
「おい!何が如何なっている!この男は如何見ても一般人じゃないぞ!?」
「知ってるよ、そのくらい」
「じゃあ何故だ!?何故、貴様は記憶も無い筈なのにこの男と親しげでいる!」
国木田は間違いなく混乱している。
今し方、自分達を殺そうとしか思ってないような気迫で詰め寄ってきた男と紬が普通に会話しているのだ。
そんな国木田に呆れ、溜め息を着きながら応える。
「答えなんて1つしかないだろう?」
「っ!!」
そうだ。
分かっていたのだ。―――解りたくないだけで。
その1つしか浮かばなかった答えを否定して欲しかったのだ。
しかし
「私はポートマフィアの構成員だ。昨日迄の私が何をしていたかは知らないが、少なくとも『今』の私はマフィア側の人間だと思っているよ」
「なっ………」
紬は何の躊躇いもなく答えた。
「……。」
中也は2人のやり取りを黙って聞いていた。
ああ……よく見ればコイツも探偵社の連中か
そう気づいて、邪魔しなかったのだ。
「中也」
「あ?」
「先刻の話について詳しく訊きたいことがあるのだけど」
「手前はマフィアの掟を忘れたのか?」
「何分、記憶喪失なものでね」
ヘラッと笑って云う紬。
初めて見た紬の笑顔。
「………。」
先程の言葉に嘘、偽りが無いことを強調しているようにしか見えなかった。
何が如何なっているのだろうか。
一緒に行動していた同い年の少女は
『マフィア』と云う組織の人間だったのだ。
考えが、纏まらない。
ゴッ!
「っ!?」
そんなことを思っていると強い衝撃と痛みが首を襲い、
―――意識が飛んでいった。