第28章 己ノ終焉ヲ想ウ、歌
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武装探偵社事務所内―――。
珍しく机に向かって作業している太宰に驚いた敦だが、それ以上に気になることが出来、話し掛ける。
「あれ?太宰さん、紬さんは如何したんですか?」
「んー?」
動かしていた手を止め、顔をあげる太宰。
「紬なら此の周辺の散策に行ってるよ」
「大丈夫ですか?襲われた昨日の今日で独りなンかにして……」
太宰の返答に敦と谷崎が心配そうな表情を浮かべる。
誰もが思うだろう事を指摘するも、太宰はうふふと笑っている。
「まあ、何かあったら心配だねぇ」
「僕、探してきます!」
「ああ、止め給え敦君」
「でもっ…!」
「君が紬の傍に行った方が私の心配事が増えてしまう」
ピタリと止まる敦。
「え?」
「それッて如何いう意味です?」
「そのまんまの意味さ」
「「?」」
太宰は苦笑すると再び机に向かった。
―――
「オイ。何処に行く心算だ?」
「……。」
紬は周囲を確かめるように見ながら独り歩いていた。
そこに現れたのは自分と同じ境遇らしい男―――国木田だ。
「聞いてるのか?聴こえてないのか?」
返事をしない紬に苛立ちながらも話し掛ける事を止めない。
流石に面倒だと思ったのか。
「昨日の場所」
紬は溜め息を深く着いた後、漸く応えた。
「成る程。現場に行けば元に戻る手懸かりが在るかもしれんしな……だが危険ではないか?」
「判ってて行くんだよ」
「何だと!?だったら行かせることなど出来ん!あの探偵社の人達にも付き添いを頼むべきだ!」
国木田が紬の進行方向に先回りして、立ち塞がった。
「私は待ち伏せる危険など関心すら無い。抑も君が関わらなければ。付いてこなければ良いだけの話だろう?」
「俺とて無関係では無いからそういうわけにもいかん!」
国木田の返事に、面倒臭そうな顔をする紬。
そして…
「君のその強い正義感は鬱陶しいな」
「?!」
ゾクッ…!
突如、感じたことの無い寒気が国木田を襲った。
…殺気………か?
自分の意志と関係なく、手足が震え出す。
背筋が凍る……とはこの事だろうか。
そんな考えが過るも
「………。」
道を開けることはしなかった。