第28章 己ノ終焉ヲ想ウ、歌
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「ふぅん。敵の異能操作をねぇ」
事のあらましを聞き、御茶を啜る太宰。
「しかし、私が触れても元に戻らないとなると何か媒介みたいなものが在るのか」
自分の膝の上で煎餅を割って食べている紬を見て太宰が云う。
「にしても、よく判りましたね。太宰さんも紬さんも」
「ん?私が紬を見紛う筈が無いだろう?」
「……。」
ピッタリと太宰に引っ付いて離れない紬を、全員で見る。
「紬さんはその人が本当に太宰さんって判りますの?」
ナオミが紬に問う。
「……私も治を見紛う筈が無い。ずっと一緒だったのだから」
「でも姿なンか全然違うンじゃあ……」
「自分の着ている服装とサイズと『10年』と云う歳月凡てを考慮すれば今の治を想像するのは難しい事ではないよ」
太宰が湯呑みを渡すと、その御茶をゆっくり飲み始める。
「治、お手洗い」
「其処の突き当たりだよ」
そう云うと紬が離席する。
姿が見えなくなって、全員が太宰の方を向く。
「え?何?」
「何か紬さん、別人みたいですけど!」
「混乱してるようには見えませんけど……何か怒ってます?」
「先刻も物凄い勢いで『触らないで』って云ってたしな」
紬のことを覚えてない国木田まで会話に混ざる。
「ああ。幼少期の紬は元々あんな感じだったから」
「今と随分ギャップがありますね……」
敦の言葉に国木田以外が同意するように頷く。
「人見知りが激しい時期に戻された様だからね。如何しようもないよ」
太宰が苦笑しながら答えていると紬が戻ってくる。
「……何か?」
全員の視線が集まり、怪訝そうな顔つきになる紬。
「幼少期の紬があまりにも私に似ているから驚いているのだよ」
「……今は似てないのかい?」
「見分けが付くほどには似てないよ。紬は女性らしくなったからね」
「へぇ…」
「帰ろうか紬。疲れたでしょ」
「うん」
膝から降りようとする紬をそのまま抱えて立ち上がる。
「治。歩ける」
「私がこうしていたいのだよ。大人しくし給え」
「……。」
そうして2人は帰宅した。