第28章 己ノ終焉ヲ想ウ、歌
「押さえていればいいだろう?」
「落ちたら面倒だし此れでも一応、女だからね。それなりの羞恥心は持ち合わせているのだよ」
「は?女、だと?」
国木田が固まる。
「男に見えるかい?」
「……。」
ベルトを嵌め終わると歩き出す紬。
「あ、待って。国木田さんが固まっ」
動かない国木田を待つために。
先に進みだした紬に向かって、敦は慌てて手を伸ばした。
「触らないで!」
「「!?」」
突然の大声にビクッとする2人。
「済まない……でも絶対に…触れないでくれ」
「……あ、はい」
初めて無表情に色が宿る。
悲しそうに眉を寄せて云った紬に、敦は何も云うことが出来なかった。
―――
「未だ着かないのか?」
「もうすぐです」
子供にとってはけっこうな距離だったのだろう。
国木田が疲れたのか、敦にぼやく。
それに、苦笑して返すと紬の方をチラリと見た。
「……。」
相変わらず何を考えているのか判らない程の無表情。
しかし、何かを得ようとしているのか周囲を窺いながら敦達の後ろを歩いていた。
「紬さんも大丈夫ですか?もうすぐ着きますから」
「ん?ああ…大丈夫。ありが――……」
「?」
突然、ピタッと歩みと会話を止める。
其れに釣られて敦も歩みを止めた。
「如何かし……」
云いかけたその時には紬は走り出していた。
「何だ?!如何した!?」
「紬さ……あ。」
国木田と敦が驚いて目で追う。
紬は敦達の前方に居た人物に向かって行き、
「うぉ!?」
何の躊躇いもなく抱き着いた。
突如、後ろから襲われた衝撃でよろけた人物は振り向いて原因を確かめる。
「いきなり何だ……え………紬……?」
顔も上げずに抱き着く子供の名を、呼ぶ。
其所に敦達が追い付いた。
「太宰さん…!」
「敦君。此れは一体……。って、君の隣に居るのは国木田君かい?」
紬の頭を撫でながら国木田に視線を寄越す。
「同じ顔の大人だと……?」
国木田は紬と同じ顔の太宰に驚き、
「よかったあ~………」
敦はホッとした表情を浮かべた。