第27章 行き着く先は―――
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「もう大丈夫なのか?」
「うん。すっかりね」
笑顔で国木田に返事する紬。
そんなときだった。
バンッ
探偵社のドアが勢いよく開く。
入ってきたのはスーツ姿の男。
手には真っ赤な薔薇の花束を抱えている。
「太宰紬さん。今日こそ私の秘書になる話を受けて下さい!」
この間、護衛をした官僚だった。
紬の前に来て跪く。
「気持ちは有り難いのだけど私はそういう職には向いていないのだよ」
ヘラッと笑って自分の机の方を向く。
「紬は我が社でも優秀な調査員です。抜けられると困りますから」
国木田が丁寧に拒否するも男は諦めなかった。
ガバッと立ち上がり紬に抱き着く。
「一目惚れなんです!どうか!」
「ちょっ!離れて下さい!」
国木田が慌てて引き剥がそうとする。
そんなときだ。
「あーあ。また来てたの」
「太宰!?」
ザワッ
ヤバい!修羅場になるっ!
一瞬で周りがざわめき始めた。
「一目惚れねぇ……」
抱き着かれた紬が押し退ける。
思い人に抵抗されて大人しく離れた男。
「貴女のような人、2人としていない!どうか!」
「ハッ。寝言は寝て云い給えよ」
「え?」
声が何時もより低いものとなる。
詰まり其れは―――。
男以外が太宰の方を注目する。
「私達の区別がつかない時点で君の愛なんてたかが知れてるね」
ニッコリ云った太宰の声は普段より甲高いもの。
男がポカンとして目の前の紬を見た。
紬が髪を引っ張り、ウィッグを外す。
「紬に触れようなんて重罪だよ。反省し給え」
石になる男。
周りだけが思った。
何で気付かなかったのだろうか。
太宰が紬に手を出されて大人しくしている訳が無いと云うのに。
「紬、お茶淹れて」
「ハイハイ」
兄同様にウィッグを外して給湯室に向かう太宰の格好をした紬。
そして、石になった男の耳元で太宰は囁いた。
「紬は私のだ。他の男に触れさせる気など無い」
ゾクリッ
ニッコリ笑った顔とは打って変わって、黒い何かの籠った言葉。
男が怯え出し、飛び出していった。