第3章 人生万事塞翁が虎
「座りたまえよ敦君。虎はあんな処からは来ない」
「ど どうして判るんです!」
完全にパニックの様だ。
紬は兄の出方を窺っているようだ。
「そもそも変なんだよ敦君。」
パタンと本を閉じる太宰。
漸く説明する気が起きたか――。
フッと笑って紬は敦に視線を移す。
「経営が傾いたからって養護施設が児童を追放するかい?大昔の農村じゃないんだ」
太宰に続いて
「いや そもそも経営が傾いたんなら一人二人追放したところでどうにもならない。半分くらい減らして他所の施設に移すのが筋だ。」
紬が説明する。
「太宰さん達、何を 云って――」
太宰達の方を見上げる。
窓から見える月明かりが敦を照らしている――
「君が街に来たのが2週間前。」
「虎が街に現れたのも2週間前。」
腰かけていたコンテナから兄妹共に降りる。
敦の身体に異変が生じ始める。
「君が鶴見川べりにいたのが4日前。」
「同じ場所で虎が目撃されたのも4日前。」
脈打つ音が聴こえる。
身体が徐々に人の姿では無くなっていく敦
「国木田君が云っていただろう。『武装探偵社』は異能の力を持つ輩の寄り合いだと。」
「巷間には知られていないが異能の者が少なからずいる」
最早、二人の話など聞いているわけない状態まで変化する。
しかし、二人は話をやめたりしなかった。
「その力で成功する者もいれば――」
「力を制御できず身を滅ぼす者もいる」
完全に『変化』が終わる。
二人の前に現れたのは白い――『虎』だ。
「大方 施設の人は虎の正体を知っていたが君には教えなかったのだろう」
「君だけが判っていなかったのだよ」
その鋭い虎眼が、二人を捉えると
「「君も『異能の者』だ。現身に飢獣を降ろす月下の能力者――」」
虎は地面を蹴って襲いかかってきた。
グオオオオオオオオ!!
雄叫びを上げながら飛び掛かる。
倉庫内のコンテナを破壊しながらも、確実に二人を襲っている。
「こりゃ凄い力だ。人の首くらい簡単に圧し折れる」
粉々に砕かれたコンテナを見ながら太宰が感心する。
「治。私は戦線離脱するよ?」
「ああ。離れたところで観ていてくれたまえ。」
幸いにも、虎の注意は太宰に集中していた様だ
。
紬は砂煙に紛れて、虎から距離をとった。