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【文スト】対黒

第3章 人生万事塞翁が虎


十五番街の西倉庫―――。

その倉庫の中でコンテナに腰掛けて読書をしている太宰。

その本の『完全自殺』と云うタイトルを見て「うげ……」と呟く敦。

そんな太宰の隣に同じ様に座り、太宰の左肩に身体を預ける紬。

「治。私は今日、非番なんだが。」

「知ってるさ。それでも国木田君と一緒に仕事していたではないか。」

「……誰のせいか後でゆっくり教えてあげるよ。」

太宰は紬の肩を引き寄せる。
完全に体重を掛けると目を閉じる紬。

「お二人はそっくりですね。」

話し方も、仕草も、容姿も、その格好までも凡てがそっくりだ。

「「双子だからね。」」

「え!双子ですか!?」

敦は驚くも太宰は本から目を離さずに、紬は目を開けることなく答える。

「……本当にここに現れるんですか?」

「「本当だよ」」

本当に双子なのか。息もぴったりに肯定する。

その肯定が敦の不安を煽る。

「「心配いらない」」

二人同時に敦の方を見る。

「虎が現れても私達の敵じゃないよ」
「こう見えても『武装探偵社』の一隅だ」

その言葉に安心する。

しかし、次に別の感情が襲ってきた。

「はは 凄いですね自信のある人は」


劣等感―――。

膝を抱えながら呟くように話す。

「僕なんか 孤児院でもずっと「駄目な奴」って言われてて――その上、今日の寝床も明日の食い扶持も知れない身でこんな奴がどこで野垂れ死んだって」


『天下のどこにもお前の居場所はありはせん――この世から消え失せるがいい』

孤児院の神父に云われた言葉が脳内で反芻する。

「いや いっそ喰われて死んだほうが――」

敦が言い終わるのを黙って聞いた後、倉庫の窓から見える景色を見る太宰兄妹。

「却説――そろそろかな」

「そうだね」

その兄妹の行動につられて窓を見上げた時

ガタン

「!」

物音がする。その音にビクッとして辺りを窺うもシンと静まり返っている。

「今……そこで物音が」

「「そうだね。」」

「きっと奴ですよ太宰さん!」

太宰は読書に戻り、紬は太宰に預けていた身体を起こして欠伸をしている。

「風で何か落ちたんだろう」

「ひ人食い虎だ。僕を喰いに来たんだ」



怯え始める敦。

その様子に苦笑を浮かべる紬は隣に居る兄を見やる。
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