第27章 行き着く先は―――
結局、紬は何も欲しいとは云わなかった。
周りの女と同様に「可愛い」とか「綺麗」とかは云うものの楽しそうにそう云うだけ。
限定品以外は今買わずとも買えるからだろうか。
或いは別の理由が―――
「大変お待たせ致しました」
店員に云われてハッとする。
気付けば限定品売り場の最前に来ていたのだ。
お金を支払って商品を受け取る。
店から出て、品物の入った紙袋を紬に渡した。
早速、ぬいぐるみを取り出している紬。
其れを確認すると直ぐに仕舞った。
「写真よりも可愛かったよ。有難う治」
今まで見たことない笑み。
今まで見てきたどの女よりも可愛いと思うほど………
「……もう目的のモノは手に入ったんだからその変な口調やめてよ」
「あれ。お気に召さなかったかい?」
クスクス笑って云う紬。
一瞬で元の紬に戻った。
調子が狂うから本当は髪の毛も戻して欲しかったけど。
まあ、口調が戻っただけ良しとしよう。
「並ぶとは思っていたけど真逆、2時間近くも待たされるとは」
「退屈だっただろう?申し訳無いね」
本当だよ。
そう口にしなかったのは案外、退屈ではなかったからだろう。
今まで見たことの無い紬の一面。
「もうお昼時か。治、昼食くらいご馳走するけど……」
普段は何でも断定して話すのに。
帰ると云われることが判っているのだろう。
違いない。
「そうして。喉も乾いた」
「!」
暫く前の私なら「冗談じゃない。帰るよ」と即答していた。
そうしなかったのは………
紬が目一杯、目を開いて驚き、笑った。
「何か食べたいものある?」
「特に無いよ。紬が決めれば良い」
「あ、じゃあカニグラタン食べよう。先刻、待ち合わせ場所に行くときに広告が貼ってあったのだよ」
「カニね。良いチョイスだ」
結論が出たところで紬の手を取る。
「!」
また驚いた顔をしたけれど直ぐに嬉しそうに笑った。
こんな大したこと無い事で、こんなにも笑う娘だったのだろうか?
全く見ようとしてなかったから気付かなかっただけか
或いは、私が相手だからか。
否、後者は無いな。
…………私の事など嫌いな筈だから。