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【文スト】対黒

第27章 行き着く先は―――


「場所を代わろう。紬も見ると良いよ」

「!」

そう云って商品の陳列側と通路側。
並んだ位置を入れ替わって手を繋ぎ直す。


商品よりも繋がれた手の方を一番に見て


「有難う治」

笑顔で云った。


周りのカップル達がざわつく。


私の様に気遣えとか。

紬のように感謝しろとか。



『恋人』と云うカテゴリーに属しているだけで所詮は赤の他人。
醜い部分が表に出てきていて今にも脆く、崩れそうな2人の世界を滑稽だと笑った。


そして羨ましそうに紬を見てくる男達を一瞥していく。


睨まれただけで慌てて顔をそらすのも、また滑稽だ。

「治?如何したの?」

「ん?何がだい?」

「顔が怖い」

「紬が気にするような事ではないよ」

「そう?ならいいけど。こんなに並ぶと思ってなかったから怒ってるのかと思って」

シュンと。
本当に申し訳なさそうに云う紬。

紬ならばこの程度のこと、予想が付いていた筈だが…………。


ああ。そうか。


「気にしてないよ。休日だから人が多いのは当然でしょ」

「有難う。そう云ってもらえって良かったよ」


私の返事を聞いて笑顔になる


『太宰紬には見えないだろう?』


先刻の紬の言葉が甦る。


話し方と仕種。

見た目だけでなく凡てが別人なのだ。


紬だと認識できる要素は声だけと云うほどに。


周りが羨むような女性を。
『太宰紬』ではない誰かを完璧に演じているのだ。
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