第3章 人生万事塞翁が虎
「それ いつの話?」
「院を出たのが2週間前。川であいつを見たのが――4日前。」
「確かに 虎の被害は2週間前からこっちに集中している。それに4日前に鶴見川で虎の目撃証言もある」
敦の言葉と照らし合わせるように、国木田が手帳に記した情報を読み上げる。
「「………。」」
考え、目を合わせる太宰兄妹。
その動作は二人に気付かれないほど、一瞬で終わる。
「敦君これから暇?」
太宰が満面な笑みで指差しながら訊ねる。
敦の隣で紬が懐からメモを取り出し、何か書きはじめた。
「……猛烈に嫌な予感がするのですが」
勿論、敦は怯えている。
「君が『人食い虎』に狙われてるなら好都合だよね」
太宰は笑顔を絶やさない。
「虎探しを手伝ってくれないかな」
矢張り!
「い いい 嫌ですよ!それってつまり『餌』じゃないですか!誰がそんな」
「報酬出るよ」
ガタッと言わせながら勢いよく立ち上がり、抗議するが『報酬』という単語に言葉を詰まらせる。
「治、私は社に帰っ……。」
「貸して。」
紬も書き物を終え、立ち上がる。
が、そのメモを寄越すように云われ、従う。
「国木田君は社に戻ってこの紙を社長に」
そのメモを見ることなく直ぐに国木田に渡す太宰。
「わざわざ国木田君が行かずとも私が行くよ」
「紬は私と共に来るんだ。」
「………。」
色々、立腹しているようだ。従う他ないか。
はあ。と溜め息を着く紬。
「おい。三人で捕まえる気か?まずは情報の裏を取って―――」
「いいから」
国木田の抗議に対し、メモを指差して答える。
そのメモに目を通すと黙って仕舞い、作成した紬にも視線を寄越す。
紬は何も云わずに笑顔を返した。
「……。」
太宰の目が鋭くなる。
「ち ちなみに報酬はいかほど?」
表情の変化に気付いているのは紬だけだろう。
然し、敦が本題に触れたため直ぐに表情を戻して報酬の書かれた紙をピラリと見せた。
敦は驚愕した。