• テキストサイズ

【文スト】対黒

第3章 人生万事塞翁が虎


否。

去って行こうとした。

「待て」

国木田が敦の襟首を掴んで阻んだのだ。

敦はそれでもその場を去るべく手足をバタバタさせている。

「む 無理だ!奴――奴に人が敵うわけない!!」

「貴様 人食い虎を知っているのか。」

血相を変えて訴える敦に対し、冷静に聞き返す国木田。

「あいつは僕を狙っている。殺されかけたんだ!この辺に出たんなら早く逃げないと――」

国木田の拘束から必死にもがく敦。
国木田はその襟首を掴んだ手を離し、

ダンッ!

「……っ」

「云っただろう」

一瞬で足払いを決め、今度は床に拘束し

「武装探偵社は荒事専門だと」

手首の関節を決める。

「茶漬け代は腕一本かもしくは凡て話すかだな」

「………っ!」

「「まあまあ国木田君。」」

矢張り、同じタイミングで割った入る太宰兄妹。

「君がやると情報収集が尋問になる。社長にいつも云われてるじゃないか。」

「……ふん。」

太宰の言葉に、国木田は拘束を解く。

「大丈夫かい?」

「あ……はい。」

紬が敦に手を差し伸べようとする。

が。

「それで?」

目の前に太宰が割り込み、それを遮る。

やれやれ。

その行動の意味を訊かずとも理解している紬は短い息を吐くと敦が倒した椅子を片付け、先に着席し温茶を店員に頼む。

「……うちの孤児院はあの虎にぶっ壊されたんです」

敦が話し始めた為、着席するように促す紬。


「畑も荒らされ倉も吹き飛ばされて――死人こそ出なかったけど貧乏孤児院がそれで立ち行かなくなって口減らしに追い出された――」

孤児院の事を思い出しているのだろう。
敦の表情は暗い。

「…………。」

「……そりゃ災難だったね。」

「それで小僧。『殺されかけた』と云うのは?」

「あの人食い虎――孤児院の大根だけ食ってりゃいいのに、ここまで僕を追いかけてきたんだ。」

ドンッ!と机を叩きながら理由を答える。

「孤児院を出てから鶴見川のあたりをふらふらしてた時――」

ゴミとして棄てられていた姿見に「人食い虎」が映ったのだという。

「あいつ僕を追って街まで降りてきたんだ!空腹で頭は朦朧とするしどこをどう逃げたのか」

項垂れて話し切る。

「………。」

その敦の頭を紬が撫でる。
が、何か思うことがあるのか無言だ。
/ 449ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp