第26章 影は常に付き纏うもの故に
―――
「織田作の遺言を実行したい気持ちは判った。でも少し冷静になるんだ」
「私は何時だって冷静だよ。動くなら今しかない。『ポートマフィア』と『異能特務課』が接触したばかりの今ならば話を切り出しやすい」
「しかし、相手は非合法組織に諜報員を送り込むような政府組織だ。安全を確かめてから動かないと危険過ぎる!」
顔をしかめて太宰の腕を掴む。
漸く足を止めて振り向いた兄を、首を横に振りながら引き留める紬。
「紬は待機しておいていいよ。私が如何にかしてくるから」
「……。」
紬は驚いた顔をしていた。あまり物事に動じないから珍しいとは思った。
そしてこの時。
私はどんな表情をしていたのだろうか―――?
紬にそれだけを言い残して踵を反す。
私を掴んでいた腕は、あっさりと解放された。
若し、あの時に一度でも振り返っていたならば―――
―――
ハッ
視界に映るのは見慣れた天井。
「夢、か」
安堵して息を着く。
が。
違和感。
「……紬……?」
寝る前までは確かに此処に居た筈なのに。
急に不安に駆られて重たい身体をゆっくりと起こして辺りを見渡す。
カタッ
「……。」
台所から物音。
時計に目をやると時刻は正午を既に告げていた。
立ち上がって音のする方へ歩いていく。
矢張り血が不足しているのか。
ふらつきながら目的の人物の元へ近付いた。
「おや。もう起きてしまったか」
「ん」
食事の用意の手を動かす紬を後ろから抱き締める。
「未だ調子が良くないだろう?横になって」
「紬が隣に居ないのにかい?」
「隣には居ずとも傍には居るよ」
「……。」
その通りだ。
なのに離れる気がないのは……
ナデナデ
「!」
紬が私の頭を撫でる。
「嫌な夢でも観たのかい?」
流石、鋭い。
返事の代わりに腕の力を込めた。
顔は見えないが「ふふっ」と笑う声が聴こえた。
「もうご飯出来たから蒲団を畳んできて」
「うん」
紬を解放して、居間に戻った。
云われた通りに蒲団を畳終わると同時、紬が食事を運んできた。