第26章 影は常に付き纏うもの故に
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フラリとした足取りで外に出た太宰の目についたのは大きな川だった。
「うん。死のう」
「待って!」
飛び込む寸前。
声がした方を見る。
しかし、太宰は直ぐに河に飛び込んだ。
「私も連れてって!」
後を追うように飛び込む女。
―――○○の娘だった。
「ゴホッゴホッ」
飲んでしまった水のせいで噎せかえる太宰。
そして、目の前に居るびしょ濡れの女を睨み付けた。
「何で邪魔するの」
「死なせる気が無かったからだよ」
はぁ、と息を吐いて太宰の髪に今度は触れた。
「……あの女と心中したかった?」
「!」
そう云うことか。
漸く凡てを理解して紬を抱き締める。
紬も、今度は腕の中から抜け出すことなく兄に身を預けた。
「あれ、○○だったのか。髪型が違ったから気づかなかったけど」
「治の髪を切られたからね。腹癒せに『蠍』をけしかけて娘を襲わせた上で髪を送り付けさせた」
「それで私達とは別の部屋に監禁されていたと」
「そう。後は知っての通り、あの女を解放させて治と接触させただけ」
「何故、私が河に飛び込むと?」
「つい先刻、国木田君に話してたから」
予め用意していたタオルで太宰の髪を拭いてやる。
そして、タオルに付いた血を見て顔をしかめる。
「でも得策じゃ無かった…傷が開いてしまったね。矢張り病院に」
太宰が口を塞ぐ。
暫く行為は続き、息が上がった頃に止める。
「私は紬のモノだよ」
「私も治のモノだよ」
それだけで凡てが伝わったのか。
「家に帰る。紬が手当てしてくれればいい」
「うん」
2人は手を繋いで帰っていった。
―――
「紬。仕事行かないの?」
「休暇届を出してきた」
何時もの時間に行動しない紬に不思議そうに声を掛ける太宰。
「じゃあこのままもう少し寝ていい?」
「ん」
太宰の方は仕事に行かなければならないのだが。
昨日の今日だ。
多目に見てもらえるだろう。
それに。
「引っ付いて居ないと回復しそうにない」
「ふふっ。今日はゆっくり休もう」
「シたいんだけど」
「其れは3日間禁止」
口をきいて貰えるだけマシか。
紬を抱き締め直すと太宰も再び目を閉じた。