第26章 影は常に付き纏うもの故に
ところが、だ。
「中也と一緒に居たからそんなに心配してない」
「……え」
太宰の腕の中から抜け出して紬は去って行ったのだった。
完全に固まる太宰。
何処からともなく押し寄せる足音。
「警察だ!」
突入してきた警察に国木田が色々と説明をする間も太宰は一言も喋ることなく固まっていた。
「病院に」
担架に乗せられて連れていかれようとしたのを断り、フラフラの足取りで出ていく太宰。
完全に放心状態だ。
国木田がその後を追う。
そして、見失ったのだ―――。
―――
「無事だッたンだね」
「はい。ですから鉈は仕舞ってください」
その日の朝、出勤してから無事を告げた国木田。
「紬の云ッた通り、戻ッてきたねェ」
「そう云えば太宰兄妹は未だ来てないのか?」
「兄の方は兎も角、紬は休暇中だよ」
「は?」
休暇だと?
紬の机にある休暇届を見る。
「国木田さん達の分の仕事を粉す代わりに社長に休暇の許可を貰っていましたから」
敦が云う。
見れば、国木田の机も太宰兄妹の机も綺麗な状態だった。
「本当に心配してなかったのか?」
「え?」
国木田が小声で呟いたと同時。
朝のニュースを見るためについていたテレビが「臨時ニュース」の音を奏でた。
全員で其方を注目する。
『衆議院議院○○氏が暴力団と交友していた事が判明。警察が緊急逮捕』
「「「!?」」」
全員が目を見開く。
『麻薬所持も確認された事から他の事件への関与がないか慎重に調べる方針』
「娘を麻薬中毒にしたのは父親だッたッてことかい?」
「可能性はありますね。親元から逃げ出して家出していた様ですから」
そして、正午。
昼食時にテレビを観て居ると再び臨時ニュースが入る。
「多いですねー臨時ニュース」
「そうだね」
敦と谷崎が暖気に云う。
『今朝、緊急逮捕された衆議院議院○○氏の娘である○○が○○川で遺体で発見される』
『身体に複数の注射痕があることから薬物使用による異常行動が原因の自殺の可能性が高い』
「自殺だッて?!」
「そう云えば○○さんって何処に居たんですかね?」
「矢張り、親が薬漬けにして家に軟禁していたんじゃないのか?」
再び、社内が騒然となった――。