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【文スト】対黒

第26章 影は常に付き纏うもの故に


「私を痛め付けたことを嬉々として話しでもしたかい?」

「その通りだよ。お陰でかなり不愉快な気分にさせられた」


「!?」


扉から入ってきたのは紬だった。


何時も通りの恰好。何時も通りの声。


何時も通りでないのは―――


「捜したのだけど?」

「ごめん」

「如何して大人しくしているの?」

「捕まった方が事態が動くと思って」


表情だ。

何時も、太宰に向けている表情はどんなものだったのかすら思い出せない程に無表情。

その表情を崩さずに兄に近寄っていく妹。


心なしか、太宰が少し怯えているようにも見える。

「何時まで大人しくしている気だったの?」

「そろそろ動く気だったさ!ねぇ!?国木田君!」

「あ…ああ…」

声が裏返った。

矢張り、本当に怯えているらしい。


太宰のために同調するも、紬は一切、国木田の事など見ない。


「怪我しないでって云ってるよね?」

「相手が少し多すぎたのだよ……態とじゃあないよ!」

太宰が壁に張り付いて、両手を小さくあげて降参の姿勢を取る。



「―――この髪型は何?」



「これは――………そのー………」

髪に触れるか触れないか。
太宰に手を伸ばして紬が問う。

太宰が視線を泳がせる。


「髪はまた伸びるから、ね?」


プチン


「国木田君。鋏」

「は!?」

国木田の愛用の手帳を投げつけて紬が云う。

その間も、一切、太宰から目を反らさない。

「手帳を取り返してきてあげたのだよ?お礼に私が所望する鋏くらい出し給えよ」

声音に殺意が混じっている。


「駄目だって!紬!ねぇ!?何でも云うこと聞くから!それだけは!折角、伸びていて愛らしいのに!」

「治が軽んじる程のものだ。私にも必要無い」

「そんな積もりで切られたわけじゃ無いのだよ!ごめん!次からは気を付けるから!」

「治の『次』は後何回あるのだい……?」

「否、ほんとに!髪を切られて送り付けられるなんて初めてでしょ!?ね!?」

「……。」

本当に初めてだったのか。

太宰の言葉に紬が押し黙った。

はぁと小さく息を吐く。


「心配掛けたね」


漸く紬を抱き締めることが出来た。
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