第26章 影は常に付き纏うもの故に
太宰が目を伏せる。
「例えば紬が居なくて。私の恋人が他の男を好きになったと告げれば、私はあらゆる手段を使って迷わずその男をこの世から消し去る程、非道だ」
「……色々突っ込みたいことはあるが続けろ」
「でも紬だとそれが出来ない。理由は1つ。拒絶されたくないからだ」
「……。」
「私が紬の行動を自分の事のように分かってしまうように、紬も私の行動が読める。だから紬に最愛の人が出来たとして、其れを妬んで私がその人を葬れば他者には絶対に気付かれずとも紬には確実に分かってしまう。それで拒絶された日には私はこの世には居ないだろうね」
嘲笑しながら話す太宰。
「それならば『兄妹』という枠に囚われる方を迷わず選ぶ―――筈だったのだよ」
「駄目だったのか」
「駄目だったねえ。相手に手をあげることを忘れて紬に手を出したのだから」
「……何が云いたい?」
国木田が太宰に問う。
こんな話を聞かせたい訳ではないことを何となく悟っていたのだ。
「紬は今、怒っている」
「………。」
否定は出来ない。
何時ぞやの爆弾事件の時に太宰を撃った主犯を殺す勢いで打ちのめしていたから。
お互いの事が手に取るように判るが故に、こんなことを云うのか?
正直、誰もが知っている事だ。
「口をきいてもらえないかも知れない」
「だから髪を切られる際、俺の髪を切ってくれと懇願してたのか」
「うん、そう。恐らく、切った…しかも都合よく血塗れの髪を探偵社宛に送り付ける心算だったのだろう。それを紬が見たと思うと………」
がっくりと項垂れる太宰。
「見てないかもしれないだろう」
「それはないよ。だってほら………」
「?」
太宰が顔を上げる。
釣られて国木田も同じ方向を向く。
キィッ
「!?」
扉が開いた。
「がっ……ぁ!?」
太宰達を連れてきた。
ひいては、太宰の頭を鉄パイプで殴り、髪を切り刻んだ男が突如、部屋に転がり込んでもがき苦しむ。
「おい!?如何した!?」
国木田の問いに答えることなく、男は動かなくなった。
紬の『終焉ヲ叶エル終ワリノ歌』か―――
太宰が立ち上がって頭を抱えた。