第26章 影は常に付き纏うもの故に
「あの男が本当に属している組織を教える代わりに蠍の持つあの店以外の拠点を凡て教えてくれないかい?」
「……手前にしては悪くねぇ条件だな」
「でしょ?」
「何を企んでる?」
「中也に警戒される程の事は企んでないよ、今はね」
「ってことは俺の返答次第かよ」
「そうなるね」
クスクスと笑う。
「情報の信憑性は?」
「聞く必要ある?」
「手前にしては温ぃ。何故、こんなに温い取引だよ」
「………時間がない」
「あ?」
ポツリと云う紬の言葉を聞き取れなかった中也。
もう一度云う気はないのか。
ポケットから取り出した箱を見せる。
「……。」
中を見て、確信した。
「如何する?」
「直ぐに集める。少し待てよ」
あの『蠍』連中は、完全に紬の怒りを買ってしまっていることを――。
「流石、中也。話が判る」
そう浮かべている笑顔ですら、寒気をもたらす程のモノに変わってきつつあるのだ。
中也が部下達に連絡し終え、返事を待つ間。
「で?あの男の所属先は」
「『蠍』だよ」
「……手前に聞く前。あの馬鹿そうな女2人と既にシャブ漬けにされていた女を蠍に売り飛ばした時に聞いた話では『鬼蜘蛛』って云う話だったがな」
「どちらを信用するかは中也に任せるよ。しかし、治の命が掛かっている此の状況下で私が嘘を付くと思うかい?」
「ねーな」
譬え敵でも100パーセント有り得ないだろう。
ただですら太宰兄妹は取引に於いて絶対に嘘をつかないのだから。
「でしょ」
笑顔で云う。
「既に薬中だった女は先刻も話が出ていたように政治家の○○の娘だった」
「手前等の金蔓の顔を知らないなんざ話にならねぇな」
「全くだよ。それほどに杜撰な対応をする上、役に立ちそうにないことに気付いていたのだろうね。○○は鬼蜘蛛とも関係を持ち始める」
「鬼蜘蛛ねぇ」
ポートマフィアからすればどちらも大したことない小規模マフィアだ。
「その事に気付いた蠍が鬼蜘蛛を潰そうと企てる」
「それであの男か」
「そう。鬼蜘蛛である程度の地位まで登り詰め、唆したようだね。『薬漬けにされた女は金に成る』と。その手の事業を全く持ってなかった鬼蜘蛛に『楽園』の存在を教える」
「自らがスパイとなって俺達から『楽園』を奪った訳か」