第26章 影は常に付き纏うもの故に
成る程。そう云うことか。
見た瞬間から殺意を纏っていると思っていたが。
太宰が拉致られたか。
此処にきて漸く紬の怒りの根源を理解する。
「違うのかい?」
「勿論。君の勘違いさ」
爽やかな笑顔を返す男。
「……そうか」
紬が目を伏せる。
「じゃあ質問を変えよう。大切な人の一部が届けられた場合、君なら如何する?」
「何を馬鹿な事を訊くと思えば。こんな社会にいる以上、そんなヘマはしないよ」
「……。」
男の言葉を中也が黙って聞いている。
「そうか。参考にしよう」
ニコッと笑って、立った。
「帰るのかよ」
「用事が済んだからね」
ふふっと笑って答える紬に
「君、帰れると思ってるの?」
男が拳銃を向ける。
「殺る気かい?まあ、別に構わないけど」
やれやれと溜め息を着く。
それと同時に中也が立ち上がった。
「他に行くところあんだろ?送ってやる」
「え!?」
「おー。どうしたの?中也。とことん優しいねぇー」
「待って下さい!中原さん!?」
男が慌て始める。
振り返りもせずに紬が部屋を出ていったのを見て、中也が漸く男の方を向く。
「アイツを敵に回すとろくなことねーぜ?」
「!?」
それだけ云うと中也も部屋から出ていった。
―――
「で?何の用だよ」
「ホント。話が判るねぇー中也は」
中也の愛車に乗り込んで移動中。
ヘラッと笑って云う紬に苛つきもせずに運転している。
そう。
紬が会いたかったのは太宰達を拉致しただろう『蠍』の幹部なんかではなく、中也だったのだ。
「取引をしに来たのだよ」
「取引ねぇ……」
人目のつかないスペースに停車させる。
「それに応じるメリットはあるわけ?」
「さあ?しかし、デメリットはあるだろうねぇ」
「……。」
紬の纏う空気はマフィアに居たときのものに変わっている。
「内容を聞いて考えてやる」
中也が折れる。
うふふと笑って口を開く。
「この間の裏切り者の男の本当の所属先を教えよう」
「!」
ポートマフィアから管理していた『楽園』を盗み、姿を消した男。
先日、中也の手によって葬られたばかりの男だ。