第26章 影は常に付き纏うもの故に
―――
時刻は間もなく日付が替わろうとしている頃。
「態々、御足労頂き有難うございます」
「ふん」
通された部屋のソファにドカッと座り周りを一瞥する。
「真逆、貴方の様な方がお見えになるとは」
「俺が来たら困ることでもあったのかよ?」
「真逆!判っていたらもっと上等のワインを用意していたのに!」
爽やかな対応をみせる男。
その男が対応しているのは小洒落た格好をした少々、小柄の男性。
「必要ねぇ。其れより本題に入れ」
「御多忙ですよね。申し訳ありません」
ポートマフィア幹部が一人、中原中也だ。
「この間、我々に売って下さった商品の件で」
「処分する心算だったのを欲しがったのは手前等じゃねーか」
「勿論!その通りです!商品にクレームをつける積もりではないのです!誤解しないで頂きたい!」
中也の殺気混じりの睨みで男が慌てて弁解する。
「で?」
「あの連中、我々では入手困難な『楽園』の中毒者のようでして」
「そういや、そうだったな」
「御存知だったんですか?」
「ああ。だから処分する気だったんだよ。手前等の手に余るだろうが」
「しかし、金には成るんですよ」
男が苦笑する。
「其処で相談なんですが『楽園』をお譲り頂けないかと思いまして」
「……。」
考え込む中也。
しかし、想定通りの話だった。
『楽園』の依存性は他の麻薬を遥かに上回る。
そして、狂ったように異性を求める為、身体を売る店としてはいい稼ぎ頭に成るのだ。
なので入手困難な『楽園』は高値で取引出来る。
「そんなに『楽園』が欲しいか」
「それは勿論。以前から噂には聞き及んでおりましたが、実物を見たことはおろか、使用者も見たことがなかったのでこんな素晴らしいモノだとは思ってもいなかったのですよ」
笑顔で答える男。
「……そうだなぁ」
暫く話し込む2人。
そして、中也が何か云おうとした時だった。
コンコンコンッ
「!」
「……。」
突如、ノック音が響いた。
「済みません。人払いをしておいた心算ですが」
「……。」
中也が扉の方を見ている。
コンコンコン…
再度、ノックされ、男が苛立ちながら扉へ向かった。
「大事な商談中だから此処には絶対に来るなと云っていただろう!」
男が扉を開けながら怒鳴る。