第26章 影は常に付き纏うもの故に
中を覗く4人。
「!?これはっ!!」
「……。」
敦達の顔も青くなる。
唯一、何も云わずに中身に触れる紬。
「紬……」
「治のでしょうね」
中に入っていたのは血に塗れた黒髪だった。
箱を閉じる。
そして、其れを自席に運んで着席する。
「紬!」
「何です?」
与謝野の声に何時も通りに反応する紬。
「何です?じャあないだろう!如何すンだい!?」
「如何もしませんよ。私はね」
ニッコリ笑って書類整理を始める。
「「………。」」
その姿に誰も何も云わなかった。
周りが如何するかと騒ぎだしても紬は自分の仕事を黙々と粉していた。
最悪な事に、
探偵社の長である福沢も外出中。
探偵社の頭脳である乱歩も遠出している。
何時もなら国木田が取り仕切るところなのだが、その国木田も行方不明。
そして、相方の太宰に至っては『身体の一部』である髪の毛を血塗れの状態で送られるという始末。
このままでは2人の命が危ないのは間違いない。
一体、如何したら―――
「却説と」
「「「!」」」
紬が立ち上がる。
「紬?」
「業務を終えたので此れで失礼します」
「何考えてンだい!?アンタの大事な兄が死に掛けてるかもしれないンだよ!?」
「大丈夫ですよ」
焦りしかない与謝野とは打って変わって、落ち着いた様子でニッコリ笑う紬。
「気味が悪いだろうから此れは私が持って帰りますね」
手に持っているのは髪入りの箱。
「本当に……大丈夫なンだろうね?」
「私は嘘は付きませんよ」
ではお先にー、と軽い調子で出ていく紬を見送る探偵社員。
「……紬が一番慌てたいだろうに情けないねェ」
「そうですね……」
反省する社員達。
「ン?」
谷崎が紬の机を見て何かを手に取る。
「何だい?」
「休暇届です」
何もない机に置かれていた白い封筒。
「そう云えば『2人が帰ってきたらお暇を』って云ってましたもんね」
苦笑する敦達。
此れを見て、明日2人は帰ってくるのだろうと信じる事にしたのだった。