第3章 人生万事塞翁が虎
場所を変えて、と或るお食事処――。
「ふふふ。それだけ美味しそうに食べられれば茶漬けも本望だろうね。」
無我夢中で茶漬けを頬張る敦をニコニコしながら観ている紬。
「おい太宰 早く仕事に戻るぞ」
苛立ちのせいか。
机を指でつつきながら隣に座る太宰に話し掛ける。
ところが
「何故、国木田君と一緒に居たんだい?」
敦から太宰に視線を移す紬。
「治がサボったりするから連帯責任と云われて連行されたのだよ。」
「ふーん。」
「不満そうだね。治が悪いのだよ?」
「判っているさ。納得はしていないがね。」
「やれやれ。」
肝心の太宰は妹と喧嘩中で全く聞いていない。
ピキッ
音が聞こえたのではないかと思う程、国木田の額にハッキリと青筋が浮かび上がる。
「仕事中に突然「良い川だね」とか云いながら川に飛び込む奴がいるか おかげで見ろ。予定が大幅に遅れてしまった。」
「国木田君は予定表が好きだねえ」
漸く国木田の方を向く太宰。
「これは予定表では無い!!理想だ!!我が人生の道標だ。そしてこれには『仕事の相方が自殺嗜癖』とは書いていない」
そう云いながら「理想」と書かれた手帳を指でつつき、力説する。
「ぬんむいえおむんぐむぐ?」
お茶漬けを食べながら敦が乱入する。
何を云っているのかサッパリ……
「五月蠅い。出費計画の頁にも『俺の金で小僧が茶漬けをしこたま食う』とは書いていない」
「んぐむぬ?」
「だから仕事だ!!俺と太宰は軍警察の依頼で猛獣退治を――」
机をダンッと叩きながら敦に怒鳴る国木田。
「「君達なんで会話できてるの?」」
「五月蠅い!お前達だけには云われたくなどない!!」
太宰兄妹の的確なツッコミにも怒鳴って反応した。
―――
「はー食った!もう茶漬けは十年は見たくない!」
「お前……」
敦の言葉に国木田の顔に青筋が入る。
「いや、ほんっとーに助かりました!
孤児院を追い出され横浜に出てきてから食べるものも寝るところもなく……あわや斃死かと。」
「「ふうん 君 施設の出かい。」」
全く同じ反応、同じ台詞を吐く男女に驚くも、敦は話を続けた。
「出というか……追い出されたのです。経営不振だとか事業縮小だとかで。」
「それは薄情な施設もあったものだね。」
今度は太宰だけが反応する。