第26章 影は常に付き纏うもの故に
「目立ち過ぎない程に着崩しててお洒落でしたよ」
「ふーん。谷崎君もやってみたら?」
「ははは…ボクは無理ですよッ」
そんな会話をしていると、何やらパトカーが数台。
目的の店を取り囲んでいた。
「おや。取り込み中のようだね」
「イヤイヤイヤ!取り込みッていうか事件ですよ!」
アッサリと云う紬に谷崎が全力でツッコミを入れる。
そんな人混みに、とても警察に見えない人間が2人程混ざっていた。
「敦君、鏡花ちゃん!」
「「!」」
名前を呼ばれてその2人が反応する。
「紬さん、谷崎さんも」
「何してるの?こんなところで」
「人質を取って立て籠りが発生してて」
敦が説明すると、見知った警察官が頭を抱えてやって来る。
「おや、箕浦さん。ああ、成る程。帰社中に巻き込まれたか」
「なんだ。探偵社は野次馬するほど暇なのか?」
「偶、帰社前に寄ろうと思ッただけですよ!」
谷崎が言い訳する。
「犯人は?」
「男が一人。得物は『はじき』」
「堅気じゃないってことか」
「人質は店員と客、合わせて20近くだ。交渉するも全く応じない」
「……。」
紬が何かを考える。
「裏口は?」
「在るには在るが、狭すぎる。突入部隊が入りきる頃には何人の被害者が出るか判らん」
「ふーん」
説明を受けて路地の隙間を見る。
確かに。と思うほど狭い通路。
「敦君」
「はい」
「全員の注意を一瞬だけ反らして欲しいのだけど」
「えぇ!?如何やって!?」
「如何やってって。1つしかないでしょ?」
ニッコリ笑って云う紬にガックリと項垂れる敦。
「鏡花ちゃん、ヘアピンある?」
「?はい」
髪から1本、ヘアピンを取って渡す。
「谷崎君。突入するよ」
「判りました」
「ちょっ!おい!?」
箕浦の声をよそに、紬と谷崎が裏口扉の前に着く。
「異能力『細雪』――!」
「何!?」
2人の姿が消える。
其れが合図だったのか。
『月下獣』―――
「「「!?」」」
グォオオオオォオオオ!!!!
白い虎が雄叫びを上げて店の前に突如として現れる。
硝子張りの店。
虎がジロリと店の中を見ると人質はおろか、犯人すらも脅えていた。