第26章 影は常に付き纏うもの故に
「谷崎君」
紬の声でハッとする谷崎。
「『細雪』―――!」
誰も居ない通路の景色を上書きする。
「ほら。君達はその男を拘束して、本当の仲間を如何したか尋問でもし給え」
紬の言葉で漸く動き出す連中。
そして、護衛対象を上から見下ろす。
「私個人は間違いなく世の中を舐めきった人間ですが、今からは『我が武装探偵社の長の判断で参上した人間』として伺います」
男はガタガタと震えている。
「未だ苦情があります?」
「済みませんでした!!」
護衛対象が素早く土下座した。
このやり取りを谷崎は「ははは……」と笑いながら観ているのだった。
それからも幾度となく狙われた。
狙われなかったのは移動先の『会議』の間だけだろう。
そして、止めは――
「太宰さん………つ……次は、何時狙われるのでしょうか?」
会議を終えて、帰路を走る車中。
護衛対象は敬語で紬に話し掛けた。
何時の間にやら力関係が逆転している……。
谷崎がまたもや心の中で『ははは』と笑う。
「そうですねえ。これまでは嫌がらせの域だったのが急に逸脱したことを想定すると、貴方が狙われる理由は先程の会議だったのでしょう」
「……。」
男が黙る。
この会議で男の『昇任』が決まったのだ。
新しく得られる権限、新しく得られる利益―――。
妬まれる材料としては最適だった。
勿論、紬や谷崎がこの話を知っているわけがない。
故に、男は紬に敬意を払わざるを得なかった。
この推理力で命を救われた回数はもうすぐ2桁になろうとしているところだった。
「そうなれば暗殺を企む連中はこの会議の前後で始末を付けたい」
「何故です?独りの時とかの方がよッぽど狙いやすいですけど」
「今ならば容疑者となりうるのは『あの会議に出ていた全員』だ。しかし、明くる日に持ち込むとしよう。そうなればその中でも『より因縁の深い人間の犯行』だと絞られる可能性が上がる」
「成る程」
谷崎が納得する。
「今、その因縁の深い相手の名をピックアップして頂いても構わないのですけどねえ。万が一、その中に依頼人の名があれば彼等も依頼人に伝えるだろうし、これから先も狙われ続けることになるでしょう」
「ひぃっ……!」