第26章 影は常に付き纏うもの故に
「私が2人の業務の出来る限りを負担しましょう。その代わり、2人が戻ってきたらお暇を下さい」
「判った。お前に任せる」
「有難うございます」
「因みに接触は何時頃だと?」
「そうですねえ」
兄の机の分の書類を凡て目を通し終えたのか。
国木田の机に移動しながら考える。
「今日の夕方までには」
―――
あれから幕僚護衛の任務を遂行しに行く紬と谷崎。
「事前打ち合わせが全くの無意味ではないか」
珍しくスーツ姿の2人。
そりゃお怒りですよねェ―…
谷崎が思わず俯く。
「しかも女など寄越しよって!」
ピクッ
「不測の事態で人材が変更になったことは社長が謝罪と共に一報入れると聞いておりましたが」
「勿論、聞いた上で云ってるんだよ!」
「そうですか。それならば何故、お怒りに?我々も探偵社の一隅。打ち合わせなど訊かずともスケジュールを聞きさえすれば貴方の行動は勿論、危険箇所や危険分子の想定など瞬時に行えますが?」
「はっ!貴様、随分と世を軽く見ているな!」
「おや、鋭い。しかし、それはそれ。これはこれ。何なら貴方に及ぶ危険を予言してみせましょうか?」
「紬さん!?」
笑いながら売り言葉に買い言葉を返す紬をギョッとした顔で見る谷崎。
「ああ!そこまで云うなら予言してみせろ」
「判りました」
ニッコリ笑う。
そして、
「官僚の電話を盗聴していた暗殺者連中も探偵社の護衛が変更になったことを知り、我々の他に居るSPに紛れる作戦に変更」
「は?」
護衛対象の男が素っ頓狂な声を上げる。
その男の背後に居た3人のSPも完全に馬鹿にした顔で紬を見ている。
「このタイミングで…そうだなぁ。あ、この方角からの狙撃」
「何を馬鹿な…」
チュイン!パリーン……!
「「「!?」」」
紬が指を差した方角からの狙撃。
「そして、この混乱に乗じて、その男が止めを刺す」
そう云いながら指差した男は既に懐に手を入れていた。
バァン!
「ヒィ!?」
護衛対象と男の間に入っていた紬。
中りもしない弾に驚き、腰を抜かす護衛対象。
「なっ…!?」
そして、
「まあ中々の素早さだけどね。相手が悪かったよ」
ポンッ
満面の笑みでSPの男の肩に触れた。