第26章 影は常に付き纏うもの故に
紬は此の状況になって、漸く手を止め、顔を上げた。
「生きてはいますよ。今のところはね」
「状況は」
「連絡が無いことを考えれば最悪の2、3歩手前くらいじゃあないですかねえ」
「何だッて!?」
与謝野が声を上げる。
「しかし、犯人が如何動くか判らない以上、接触してくるまで待つ他、無い」
やれやれと息を吐く紬。
「待ッてたら遅くなるんじャあ!」
谷崎も紬に問う。
「では捜すかい?お薦めはしないけど」
「……。」
「国木田君を拘束したとなるとかなりの手練で、治が捕まったとなると表社会の人間とは思えない」
「「「!」」」
紬がハッキリと告げる。
「こういう場合なら私の経験上、此のあと必ず何らかの接触がある」
「理由は?」
「犯人は目的を告げていない」
「でも!ただの人攫いかも知れないじゃないですか」
「ただの人攫いならあの2人が大人しくしておく理由が無いだろう?」
「……。」
その通りだ。
全員が黙り込む。
「そうなれば2人が拘束されている理由が『武装探偵社の社員』だからと想定できる」
「確かに」
与謝野がポソリと同意する。
「攻撃力を備えている国木田君と乱歩さんには及ばずとも、そこそこ頭のキレる治が大人しく捕まっているとなると『2人が逃げれば他の社員に被害が及ぶ状況』なのだろう」
「「「……。」」」
「此処で闇雲に動き出せば2人への危険は高まる上、理由も分からぬまま次は残っている我々に危害が及ぶ」
全員が紬の言葉を噛み締める。
「それでも動けと云われるなら足りない情報の中でも2人を捜してきますけど如何しますか?」
「!」
紬が本日初めて、まともに福沢と目を合わせた。
その眼に宿るは、黒い光―――。
強い怒気と殺意を孕んだその眼を見て、それで漸く気付く福沢。
紬は手段を問うていることに。
「否」
福沢の言葉で何時も通りの紬に戻る。
返答に満足したのかニッコリ笑って書類に目を移した。