第26章 影は常に付き纏うもの故に
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翌朝―――
「国木田と太宰が帰ッてきてないだッて!?」
谷崎から報告を受けて大声を上げる与謝野。
「はい……遅くなッて直接寮に戻ッたかとも思いましたが……」
その場に居る敦、ナオミ、与謝野の顔がみるみる険しいものになる。
「紬は知ッ」
「おはようございます」
「「「!」」」
声のした方を一斉に振り向く。
視線が集まり、首を傾げる注目の的。
「如何したんです?皆でそんな顔をして」
「紬!太宰は如何したンだい!?」
「ああ」
与謝野の質問で、事態を何となく掴んだ様子の紬。
「帰ってきてませんよ?」
「何でそんなに冷静なンだい……」
一番に気が狂うのは紬だと思っていた為、落ち着いて返事をした紬を見て、急に冷静さを取り戻す与謝野。
「治がそう易々と殺られるわけないでしょう?国木田君も然り。今は慌てる状況ではありませんよ」
ニッコリ笑って云った紬の言葉で、緊張した空気が解れる。
「それよりも本日の業務ですよ。他の依頼はともかく、国木田君が行く予定だった護衛任務。如何します?」
与謝野に訊ねる。
「一寸、社長室へ行ッてくるよ」
「はーい」
与謝野を見送って自分の机に向かわず、兄の席に座る紬。
「紬さんコーヒーでも淹れましょうか?」
「あ、うん。有難うナオミちゃん」
目の前に積み上げられた書類を分けながら答える。
「敦君。恐らく、業務を分担しないと駄目なようだ。此の案件は鏡花ちゃんとやってくれるかい?」
「あ、はい」
本来だったら敦と太宰で行く予定だった案件。
それを鏡花に渡す。
「護衛任務は私でも善いけど――」
「紬」
直ぐに他の書類を整理始めた紬の名を福沢が呼ぶ
「「「社長」」」
紬だけ反応が無い。
「国木田の案件。紬と谷崎で負担しろ」
「あ、判りましたッ」
「先方への連絡はしておく」
「有難うございます」
社長にお礼を云う瞬間だけ顔を動かし、直ぐに仕事に戻る紬。
「紬」
「はい?」
顔は上げない。
「太宰は無事か?」
「「「!?」」」
福沢の質問を聞き、再び全員が注目する。