第26章 影は常に付き纏うもの故に
「しかし、何故今頃になって『楽園』を」
「治」
「うん?」
「治と仲良く話していたひとり旅をしていた子」
「……成る程ね。そういうことか」
紬の言葉で思考の整理がつく。
「この間の神隠しの一件で、鍾乳洞奥の少し開けたスペースに女性が一人監禁されていた」
国木田が資料を見ながら話始める。
あの時、○○が□□達に打たれた注射。
「腕には注射痕があり、目を覚ました時には完全な薬物中毒者に成っていた」
あれが『楽園』だったか―――。
「太宰」
「何?」
国木田に呼ばれて顔を向ける。
「その女性は最後にお前と一緒に居たと証言している」
「間違いないね。彼女に襲われそうになったから一撃を入れて逃げたのだよ」
ピクッ
紬が太宰の言葉に僅かな反応を示す。
「だったら檻に入れたのはお前か?」
「私ではないねえ」
太宰がヘラッと笑う。
「お前があの女を拘束して薬漬けにしたのではないかと彼女の両親………政治家の○○氏が云ってきたんだ」
「ふーん」
詰まらなそうな返事。
「彼女自身は何て?」
紬が兄の代わりに問う。
「『太宰さんが私を抱いて子供を直ぐに作りたいって云ってたから』とにこやかに云っているそうだ」
「ああ……だから此の会議ね」
「……。」
太宰が欠伸する。
そして、チラリと紬の方を伺う。
退屈そうに紬も欠伸をしているが。
太宰は知っている。
相当、怒ってるね…
紬が既に何かを考え始めていることを。
やれやれ。
「!」
紬の頭を撫でてやる太宰。
漸く太宰の方を向く紬。
「私は大丈夫だから」
「……。」
その言葉に紬が立ち上がった。
「おいっ!何処に行く!?」
「休憩」
「はあ!?」
国木田が制止するも紬は振り返りもせずに会議室から出て行った。
太宰が苦笑しているだけで動かないため、追い掛けようとする国木田。
「国木田」
「!」
それを福沢が制止した。