第26章 影は常に付き纏うもの故に
「この間の一件で、『楽園』と呼ばれる麻薬の密輸が行われている事が判明した」
探偵社内、会議室。
国木田が資料を見ながら司会をする。
「『楽園』ねぇ」
太宰が欠伸しながら呟く。
「何だ?太宰。識っているのか?」
「まあね」
「何ぃ!?」
予想外にアッサリと肯定したため国木田が大声を上げる。
「国木田君。『楽園』は最近できた麻薬ではないのだよ。なかなか「表」に出てこないだけで」
紬が付け加えるように説明をする。
「するとなンだい?太宰達は見たことがあるのかい?」
「「見たことも使ったこともありますよ」」
元マフィア組の暴露。
賢治は「おー!」っと感心の声を上げ、谷崎と敦は只、笑うしか出来なかった。
「お前達、麻薬中毒だったのか」
「違うよ。自分達で使用していたわけじゃなくて」
「第三者に『投与』したことがあるのだよ」
「……。」
国木田が頭を抱えた。
「どんな作用があるンだい?」
「強い催婬作用を持ってるんですよ」
「その上、依存性が非常に高いとされています」
「そりゃあ女を娼婦に仕立てるにはもってこいの代物だねえ」
マフィアが好みそうだ、と与謝野が云う。
「して太宰。見た目は」
「薄い桃色の錠剤です」
福沢の問いに太宰が答える。
「しかし、錠剤のままでは使えません」
「如何いうことだ?」
「非常に粒子が小さい上、水分に弱いのですよ。少しの湿度でも溶けてしまうほどに。輸送中に商品にならない状態になってしまう恐れが高い故、コーティングがしっかりされているんです」
紬が説明を始める。
「飲用しても少しは効果があるでしょうが即効性が期待出来ないとされ、使用方法に『注射』と記載されています。そうなれば錠剤から「最適な濃度」の液体に作り替える必要がある」
「そんなの濃く作ればいいだけのことだろ?誰でも出来る」
国木田の発言に首を横に振る紬。
「濃度が高いと外気ですら快楽を得てしまう程、感度が上がってしまう」
「行為なんて必要無いッてのかい」
「そうです。その上、薬だけは次々に求めるから割りに合わない」
「「故に一般人向けではないのですよ」」
太宰兄妹の説明が終わると一瞬、静寂が訪れる。