第25章 今思えばあの頃から
「こんだけ変わりゃ、な」
「何の事だい?」
首を傾げる紬。
「何でもねーよ」
「そう?変な中也」
そう云うと本に視線を戻そうとする。
「そう云えばお前、何で笑うようになったんだよ」
「んー?」
栞を挟んでパタンと本を閉じる。
「治にあまり似てない事に気付いたんだよ」
「はあ?」
中也が怪訝そうな顔をする。
「前は鏡でも見ているかのような容姿だったのに。矢張り性別の差異が出てきたようだね」
「それがなんだよ」
「『双子』じゃないと通じない場合を想定して、治の表情を真似てみてるのだけど……変かい?」
「………。」
中也は呆れている。
呆れて言葉も紡げない。
太宰治と太宰紬。
紬の異能は攻撃を通さない故に、兄の方ばかり狙われるようになった。
しかし、兄は兄で曲者。
そう易々とは殺せない程、頭がキレる。
それでも怪我をして帰ってくる事を紬は嘆いた。
その結果、『入れ替り』をするようになったのだ。
口調や仕草は真似ずとも同じだが
表情や声音は違うため、お互いを真似るようになった。
因みに、二人が入れ替わっていることに気付くのは俺と下級構成員の「織田作之助」という男だけらしい。
そんな経緯があったのだが。
紬はそれを日常でもするようになっただけのことのようだ。
「そんな理由かよ」
「そんな理由だよ」
ニッコリ笑って云った瞬間だった。
ウィーンと静かに音を立てて扉が開く。
「「!」」
待ち望んだ人物を視界に捉えて、笑顔で迎える
「あ、おかえ」
積もりだった。
ガシッ!
紬の腕を掴み、引き摺るようにその場から足早に去っていく太宰。
「治?如何したんだい!?」
「……。」
太宰は部屋に戻るまで何も話さなかった。
「妹も妹だが兄も兄だな」
通りすぎ様に睨み付けられた中也は誰も居なくなったロビーで静かに呟いた。