第25章 今思えばあの頃から
1年程前から漸く紬も笑うようになった。
愉しいと思うことが増えたのだろう。
其れは良い。喜ばしい事だ。
そう思う半面。
「私以外にも笑い掛けるようになったのだよね」
悲しい様な、残念の様な。
紬は幼き頃から異能を持っている自覚が有ったが、制御することが出来なかった。
触れられただけでも人を殺す異能力
其れを避けるために極力、誰とも関わらないように生きてきた。
万が一、殺してはいけない人を殺した時に備えて常に私にくっついて行動する。
それが愛おしいと思っていた私は『兄』ではないのかもしれないと思った程だ。
ハッキリと自覚したのは最近。
紬の身体つきが女性特有の変化を始めた頃からだろうか。
常に一緒に居た存在。
双子――「妹」だから常に傍に居られた存在。
「他の女を抱いたところで満たされるわけがないのだよ」
既に他の女と寝た経験は数知れず。
その度に思い知らされる紬の存在。
いっそのこと紬を抱いて、妹ではなく『自分の女』にすれば良いのだ。
しかし、行動に移るのを躊躇っているのは拒絶された場合。
一度限りの為に、『妹』までも棄てるか―――。
それならば『兄妹』のままでいる方がずっと良い。
何の理由なく傍に居られるのだから。
「また結論は何時も通りか」
自嘲気味にぼやいて帰路を急いだ。
―――
「いい加減、こんなところに座り込んでないで部屋に帰れよ」
「そろそろ帰るって連絡があったから待ってる」
出入り口に椅子を置き、分厚い本を読みながら座っている紬に、同僚の中也が話し掛ける。
「お前、何でそんなに太宰のこと好きなわけ?」
「好きでいるのに理由など考えたこと無いよ」
笑顔で答える。
「……。」
その顔を真面に見られなかったのか。
フイッと目を反らす中也。
来たばかりの頃はどっちがどっちか。
見分けられない程、瓜二つの存在だったが、最近になって違いがハッキリ出てきた。
それまでは「男」だと思っていた連中も少なくはないだろう。
其れほどに今の紬は女の顔をし始めている。
周りが騒ぎ始めるほどに。
それを太宰が良く思って無いことも中也は知っていた。