第25章 今思えばあの頃から
紬が男達に静かに歩み寄る。
今にも逃げ出したいと云わんばかりにガタガタと震えている男達。
逃げ出さないのは、逃げ出した後の方が酷い結末を迎える事を知っているからだろう。
逃げ出した先にあるのは『死』だけだから。
やれやれ。
「紬」
「!」
後ろから抱き締める。
「腕、使わないで」
「そう思ってくれるなら私の云うことを聞いておくれ」
「……外食?」
「うん。嫌?」
漸く私の方を見るとフルフルと横に首を動かす。
「待っててくれたのだろう?」
「うん」
「ふふっ有難う紬」
頭を撫でてやると少し笑った。
機嫌が元に戻ったらしい。
「車用意して」
「は……はいっ!」
男達が一斉に出ていった。
ポートマフィアに来たばかりの頃は大人に舐められてばかりだったが其れも3日で終わった。
紬が異能力を発動したからだ。
アッサリと大事をやってのけ、功績を上げて首領に目を掛けられた私を、紬の目の前で殴り飛ばした男を殺したのだ。
『私から治を奪おうとするものは殺す』
充分過ぎる脅しだ。
「君達が常に行動を共にする理由が分かったよ」
首領も感心していた。
それから仲間内での僻みを私達にぶつけるものは居なくなった。
―――
数年もすれば崇められる位置にまで来てしまい『歴代最年少幹部』とまで云われる始末。
「断れば良かったかなあ」
「何が?」
化粧の濃い女が腕に絡みついている。
「仕事をだよ」
「私と過ごすために?」
「ふふっ」
ニッコリ笑ってホテルに入っていく。
この女は我々の取引を妨げる組織の中枢を担う男の連れだ。
使えるものは何でも利用する。
催婬剤をこっそり仕込み、情報を引き出す。
女をイカせないように調節しながら指を動かす。
訊きたいことを凡て聞き出すと意識を飛ばした隙に立ち去った。
「指だけで飛ぶほど感度が上がる麻薬ね。男が欲しがる訳だ」
また同じような仕事がきた時の為に取っておこう。
「早く帰って紬に会いたい」
情報を探り、タイミングを計って女を連れ込むまでに2日も戻れなかった事を後悔する。
「こんなことなら中也にまわせば良かった」
自分で出した名前にムッとする。