第25章 今思えばあの頃から
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今までどんな生活をしていたかと問われれば「もう覚えてない」と返すだろうが、何故マフィアに入ったのかと問われれば「退屈だったから」と迷わず返すだろう。
其れほどに退屈な世界。退屈な人生。
そんな人生を終わらせる術を模索しながらも、
確実に死ねる方法を即座にとらなかったのは……
「治、また怪我してきたね」
「大したこと無いよ、この程度。只、腕の何処かが『ポキッ』って小気味良い音を奏でただけで」
「骨まで折ってきたのか」
私の怪我に気付き話し掛けてくる人物。
その相手に満面な笑みで云うと、やれやれと溜め息を着きながら椅子と救急箱を持ってくる。
同じ顔、同じ声、同じ性格に同じ思考。
同じ日に同じタイミングで同じ母体から生を授かった、鏡でも見てるのではないかと思うほどに私と瓜二つの存在。
紬が居たからだ。
「誰だい?治にこんな怪我を負わせた不届き者は」
「紹介してあげたかったのだがね。皆、死んでしまったよ」
「そっちは聞かずとも判っているから如何でも善い。其処に立っている連中に訊いてるんだけど」
「「「!?」」」
ビクッ!
あ。居たの。
紬と会うことしか頭になかったから忘れていた。
「治は怪我してるのに君達は無傷な理由を簡潔に述べてくれるかい?」
紬は私の手当てをしながら話しているため、視線は常に私だけを捉えている。
それなのに。
私と共に行動していた黒尽く目の男達が紬の一言で明から様に怯え始めた。
無理もないけど。
放って置いても良いけれど、構成員の数が減ると私の仕事が増えるしなあ。
「紬。そんなことよりお腹空いた。久しぶりに外食しよう?」
「………。」
包帯を巻き終わって救急箱を閉じる。
やっと顔をあげた紬を見て分かった。
あ、結構怒ってる。
紬は私と違って無表情だ。
愉しいとか悲しいと云う感情は在るのか定かではないが、体調不良で辛い時も今のように怒っている時も全く表情も声音も変わらない。
「まるで人形の様だ」と云われている程だ。
だから、判るのは私だけ。
そして。
大の大人が、目も合わせずに紬に怯える理由は唯一つ。
「君達も屍の様に動かなくなれば良い」
「「「!?」」」