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【文スト】対黒

第24章 神隠しと云う名の


―――

「君の執念には感心するものがあるよ」

適当に入ったお食事処で抹茶とぜんざいを注文する紬。

「こんなに本気で人に惹かれたのは久し振りだからね。このチャンスを逃したくない」

「生憎だが私には恋人が居るよ」

「冗談。先刻の彼じゃあないでしょ?」

「違うねぇー」

「もう一人の眼鏡の人?」

「それも違う」

ピクッと紬が反応する。

「だったら嘘だとしか思えないね」

「何故?」

「男3人に囲まれて旅行なんて僕が恋人なら許さないよ」

「確かに一理あるね」

店員が持ってきた抹茶を飲みながら納得する。

「しかし、今回の旅行は保護者同伴だ」

「ああ。お兄さんだったね。あの人。心証が悪い様だけど取り戻せるかな」

「無理だろうね」

「アッサリと云うね」

苦笑する男。

「それで?駆け落ちの聖地の話を聞きたいのだけど」

ぜんざいを頬張りながら訊ねる。

「ああ。そうだったね」

男はコーヒーカップを起き、話始めた。

「殿様と村娘が駆け落ちして祠の前に辿り着いた。後ろからは殿様を連れ戻そうと家来達が追ってきている。そんな時にね。お告げがあったそうだよ」

「何て?」

「『真っ直ぐ進め。汝等の愛が本物ならば道なき道を与えん』ってさ」

「へぇー。それで突き進んだと」

「そう。殿様と村娘は壁をすり抜けて消えてしまった。彼等の愛は本物だったのさ」


「それで駆け落ちの聖地とは恋人の聖地の両方が唱われた訳か」

「そうだよ。参考になったかな?」

「そうだね。有難う」

笑顔を向けて礼を述べる。

それと同時に「御馳走様」と告げて立ち上がる。

「もう行くの?」

「話が終わったからね」

「連れないなぁー折角だから一緒に」



「お前、こんなところで何してんの」



男が紬を呼び止めようとした瞬間に別の声が乱入する。

「おや。君こそ何してるんだい?」

機嫌悪そうに立っているのは何時もの格好とは違う中也だった。

「そんなことどうでも善いだろ。誰だあ?この野郎」

「民俗学に詳しい地元の人らしいよ」

「ケッ。適当に引っ掛けただけかよ」

「私が尻軽女みたいじゃ無いか」

その光景をポカンとした表情で観ている男。


「じゃあ『またね』」


満面な笑みで云うとお金だけ置いて2人で去っていった。
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