第24章 神隠しと云う名の
「その夫婦も戻ってこなかった」
「……。」
「この夫婦の行動が神様の怒りに触れた。夫婦を探しに来た村人達に『捧げた子供も恩恵も得ようなど何と傲慢な事か。天罰として夫婦の命を頂く。二度と人間の力になどならぬ!』と怒りのお言葉を残し、それ以来、神様は消えてしまったのじゃ」
「それで怒りを鎮めるために祠を」
「そうじゃ。そして稀に祠に捧げられた供物を漁ったりと悪事を働こうとするものがおってのぉ。其奴等が忽然と姿を消したのじゃ。夫婦や子供達の様に。それが神隠しの伝説じゃ」
「大変貴重なお話を有難うございました」
太宰が礼を述べる。
「それにしてもあまり記録に残っていない話なのにこんなに詳しいのには何か理由でも?」
「鋭いのおー」
コロコロと笑う老婆。
「私は初めて神の言葉を聞いた男の末裔じゃ」
「!」
「そうだったんですね。それであの鍾乳洞の絵を飾ったりしているのですね」
「強欲は身を滅ぼすと云う戒めの為にじゃな」
ニカッと笑って答える。
「今から鍾乳洞に行くのかえ?」
「はい。この眼で実物を確かめたいので」
「悪いことは云わん。止めておいた方がええ。どうしてもって云うなら人が多い時に必ず行くんじゃ」
「と、云うと?」
「今から5年前じゃったか。この地域では全く無かった地震が起きたのじゃ」
「「!」」
5年前。
そうか。それで紬は――
「そして今から1ヶ月前じゃったか。その時も大きな音と揺れがあった。それからよく揺れる。もしかしたら神様の怒りに誰かが触れてしまったのかもしれん」
「分かりました。ご忠告有難うございます。未だ陽もあるし人も大勢居る頃でしょうから食事をしてから直ぐに向かいます」
「気を付けてのおー」
―――
「大きな音に揺れか」
太宰が引っ掛かった単語を述べる。
「『神隠し』の事は判った。しかし、恋人……『縁結び』や『駆け落ち』の聖地とは程遠い話だったぞ?」
「うーん」
太宰が首を捻る。
「あー!太宰さんだー!」
「ん?」
名前を呼ばれて顔をあげる。
駆け寄ってきたのは3人の女。
昨日の連中だ。
「昨日は有難うございましたー」
「もう少しで干からびるところでしたよー」
国木田にお礼を云う。
「浴衣かーいいねぇ風流で」
「有難うございますっ!」
■■達がはしゃぐ。