第24章 神隠しと云う名の
「勿論、論文の発表時には『昔は』と強調もしますし、今や『縁結び』のご利益も本当だと云うことで締め括り、必ず悪評が流れることを防ぐとお約束します。私が知りたいのはあくまで『言い伝え』ですから」
「ふむ……」
笑顔で云う太宰に納得したのか。
「ここじゃあなんだから上がりなさい」
「有難うございます」
店番を若い子に頼み、店奥に通してくれる。
コイツの人を欺く才能は本当に神の領域だな
手招きして自分を呼ぶ太宰を見て、国木田は呆れからか関心からか。
長い息を1つ吐いて、続いた。
「昔、この地域を大飢饉が襲ったのじゃ」
出されたお茶を啜りながら老婆の話に耳を傾ける。
「君達は『姨捨山』を知っとるかえ?」
「はい。口減らしの為に老人を捨てる制度が制定され、山に捨てたと云う伝説ですよね」
「そう。あれも実話じゃがこの地域では子供を捨てる事にしたのじゃ」
「しかし、子供は未来を繋ぐもの。それだと村も国も成り立たないのでは?」
「賢しいのお」
「恐縮です」
太宰の返答に老婆が笑顔になる。
「大飢饉に続いてこの地域を地震が襲ったのが事の始まりじゃ」
地震―――
太宰の眉が僅かに動く。
「住んでいた建物は倒壊するなど酷い被害が出たのにあの鍾乳洞だけは一切崩れなかったのじゃ」
「成る程。それであの鍾乳洞には神様が宿っていると」
「正にその通りじゃ!」
思わぬ大声に2人ともビクッとする。
「ある日、大飢饉を嘆いた男が鍾乳洞に飢饉を終わらせて欲しいと祈りを捧げた。すると何処からか声がしたのじゃ。『齢10程の子供を捧げよ』と。男は吃驚して走って村に戻った。そしてこの話を村長にし、半信半疑で子供を捧げることにしたのじゃ」
「……。」
国木田は黙って手帳に話の要点を記している。
「すると、あくる日。米俵が鍾乳洞の前に積まれていたのじゃった」
「そうすると此れを気に子供たちを?」
「そう。長男長女だけ残せば村は存続できる。生きるためとして子供を捧げ続けたのじゃ」
「成る程。それで神隠しと云うのは?」
「そうじゃった。まだ続きがあってのぅ。子供を捨てる事に耐えられなかった夫婦が捧げた子供が気になって次の日に鍾乳洞の中へ探しに行ったのじゃ」
「見付からなかった訳ですね」
「うむ。夫婦はその次の日も子供を探しに行った。そして」