第24章 神隠しと云う名の
「待たせたねー」
「あ?一体何して……」
「わあー」
遅れてきたのは浴衣姿の紬。
普段とは全く違う装いに国木田は言葉を失い、敦は感嘆の声を上げる。
「変じゃないかい?」
「似合ってるよ」
笑顔で太宰が答え、首筋に手を当てる。
髪も後でアップして留めているため何時もよりも露になった首筋。
しかし、今朝方付けた痕が見えるか見えないかの位置にあることだけ残念そうだ。
「大和撫子って感じです」
「有難う敦君」
「着るもの1つでこんなに変わるもんか?」
「ふふっだから女は恐いのだよ。用心し給え」
そう云うと旅館から出ていった。
「えー!私も紬と一緒が良いー!」
「お前は紬と居ると全く何もしないだろうが!じゃあな敦!」
「国木田君の意地悪ーーー!」
首根っこを掴まれてズリズリと引き摺られて行くのを敦と紬は手を振って見送った。
「私達も行こうか」
「はい」
2人でのんびりお土産街道を観て回る。
沢山の出店、沢山の小路が在るため2手に判れて情報収集をすることにしたのだ。
そして、敦達は例の鍾乳洞へ行く予定だ。
「賑やかだねー」
「そうですねぇ」
活気ある呼び込みに釣られて足を止めながらゆっくりと進んでいく。
「楽しそうだねー敦君」
「こういう所に来るのは初めてで…」
照れながら答える。
「私も初めてだよ」
「えぇ!?そうなんですか!?」
「意外かい?」
「はい」
「人が多いところは苦手だったからねえ」
「そうなんですねー」
深く理由を訊かないところが敦の良いところなのだろう。
「あ、綺麗な硝子細工ですよ」
「本当だ」
1つの店で足を止めた。
「鏡花ちゃんにお土産買って良いですか?」
「ふふっ勿論だとも」
何れにしようか選び始める敦。
紬も蜻蛉玉を観て感心する。
「綺麗な細工だ」
目に留まった物が在ったのか。
手を伸ばそうとした時だった。
「吃驚した。別人かと思ったよ」
突如、隣に湧いて出た男の声で手を引っ込める。
「きっと別人さ」
そう云うと敦の方に歩いていく。
「ま、待ってくれよ!そんなに警戒しなくても!」
「私は君みたいな軽い男は苦手なのだよ。軟派なら他を当たってくれ給え」
溜め息を着いて言い捨てる。