第24章 神隠しと云う名の
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敦は目を覚ました。
時計は見えないが未だ夜は明けていない。
トイレに行くため襖を開けた。
「ふぅ」
用便を済ませて蒲団に戻るときには寝惚けていた目も少しは冴えており、行くときには全く判らなかった違和感にハッキリと気付いた。
「あれ?太宰さん達が居ない………」
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「綺麗な夜空だねえー」
「本当。山だから空気が澄んでるのだろうね」
時刻は午前5時。
2人は露天風呂に来ていた。
何時もの様に兄の腕の中に収まって空を見上げている紬。
「実際のところ何処まで掴んでる?」
「んー?8割程度。後は鍾乳洞を見てみないと何とも」
太宰が紬の肩を抱いて自分の方を向かせ、元々首筋に付けていた印の上を舐めて、吸う。
「んっ……治が引っ掛けた女…」
「ああ。宿泊リストに載ってない2人組?」
「知ってたの」
「勿論」
兄の首筋にある傷痕を指でなぞりながら呟く。
「この一帯は昔から密売ルートが存在すると云われている」
「神隠しを唱った人攫いや人買いが居るらしいね。詳しくは知らないけど」
「治」
「ん?何?」
両腕を背中に回し抱き着く。それに応える様に太宰も紬の腰に手を回し抱く。
「心配せずともあんな女、眼中に無いよ?」
「そんなこと心配してない」
「少しは嫉妬してくれても良いのに」
ため息を着く。
紬は何度か躊躇って、漸く口を開く。
「…………中也を見掛けた」
「は?」
思わず素っ頓狂な声を上げる太宰。
「この一件、ポートマフィアが絡んでる」
太宰の眉間に皺が寄る。
「………何時見掛けたの」
「治と分かれて直ぐ」
「ってことはこの旅館に居―――」
「……何で手前等が居るんだよ」
「!?」
「遅かったか」
声のした方を凄い表情を浮かべて向く太宰。
そして、頭を抱える紬。
同じ様に嫌そうな顔を浮かべて立っている男はポートマフィアが幹部、中原中也。
間違いなく本人だ。
「その返しじゃ会ったりはしてないわけね」
「はあ?」
「見掛けたって云っただろう」
嫌そうな顔をしつつも湯船に浸かる中也。
流石に裸で外に居るのは寒い時間帯だ。