第2章 入社試験
真剣な話をする2人と
「治。泥だらけじゃあないか。土中なら私も誘ってくれれば良かったのに。」
「勿論、連絡しようとしたさ。でも携帯を川で落としてね。」
「ああ、そう。それで?その泥だらけの格好で家に上がる心算じゃあないだろうね?」
「私の家だからね」
「私『達』のでは無かったのか。国木田君、今日から共に…」
「悪かった!私が悪かったから!」
「ほら、外套を脱いで。顔にも付いてる。」
云われるがままに外套を脱ぐと、紬に顔の泥を拭いて貰う太宰。
顔は笑顔を浮かべている。
緊張感と云う単語を知らないのではないかと云う2人の行動。
「「………。」」
話を止め、そのやり取りをぽかーんと口を開けて観ている国木田と谷崎。
「「ん?如何かしたかい?」」
「「いや、別に……。」」
国木田と谷崎もシンクロすることを覚えた。
―――
「失礼します。」
国木田が社に戻って直ぐに訪れた先は社長室。
「○○銀行の取締役から連絡が有った。」
良くやってくれた、国木田を労う。
「有難うございます、と云いたいところですがその件で。」
「何だ?」
福沢の眉がピクリと動く。
「解決したのは紬です。私は最後、犯人の一人を取り押さえただけ。それも、紬の作った隙があってこそのモノでした。」
「そうか。然すれば、試験は」
「文句なしの合格です。観察力や洞察力、推理力や行動力。動けないと云っていましたが、太宰に何一つ劣りません。」
国木田の言葉に頷く。
「太宰の推薦に、お前の判断。間違いないだろう。」
そう云うと書類に記入し、判を押す。
「伝えてきます。」
そう云うと、一礼して社長室を後にした。
―――
「え?合格?」
「そう、合格だ。おめでとう。」
おめでとうーと彼方此方から言われてキョトンとする紬。
「筆記試験だけではなかったのかい?」
「そうだな。まあ何れにせよ合格だ。」
「ふーん。」
深く聞くことはしなかった。
「治は私が試験中だと知っていたの?」
「否。」
「そう。」
知っていたとして云えるわけない、か。
もう離れないと誓ったばかりだ。多少の事は致し方無い。
紬の考えを知ってか頭を撫でる太宰。
そして
「合格おめでとう」
笑顔で告げた。