第2章 入社試験
「ところで。」
国木田が改まって太宰兄妹の前に立つ。
「「何だい?」」
「お前達の前職は、本当に電網破りではないだろうな?」
国木田の眼鏡が鋭く光る。
「「違うよ。」」
キッパリ否定する。
「急に何だい?」
「私が銀行での件で電網破りと名乗ったのだよ。」
「へえ。」
太宰の疑問に紬が答える。
「丁度、今朝の報道でも電網破りの噂が流れていたからね。少々便乗させてもらったのさ。」
ふふっと笑って、国木田の方を見る。
太宰と違い、紬はこの間にも手を動かしていた。
「国木田君。私の分の報告書は終わったよ。」
「!」
はい、と渡されたのは本日の概要をきちんと纏めてある報告書。
ざっと目を通すも、不備は見当たらない。
「太宰……。」
「うん?」
紬ではなく兄の方へ話し掛ける。
「お前も少しは紬を見倣え。」
「えー。」
口を尖らせて不満を云う。
「紬が真面目に仕事するから怒られたではないか。」
「私が悪いのかい?」
「さあ?然し、私は悪くは無いね。」
ブーブー文句云う兄の頭を撫でて笑う紬。
「仕事も終えたし帰ってもよいかな?」
時計を見て国木田に尋ねる。
「ああ。お疲れ様。」
「紬、夕飯の買出しに行くだろう?私も」
「お前は此の報告書をあげてからだ。」
席を立ち、紬に歩み寄ろうとした瞬間に国木田に引き留められる。
「そんなあー。こんな可愛い妹が独りで帰宅なんてして襲われたら如何するんだい!?」
「そうなる前に片付けろ。」
「国木田君の意地悪……。」
項垂れて机に向かう太宰。
「治。食事の用意しておくから早く帰ってき給え。」
「……うん。」
その姿に苦笑するも紬は早々と帰る準備をして探偵社を後にした。
「本当にお前とは大違いだな。」
紬を見送って、太宰に云う。
「私達は一心同体だから。」
「…は?」
「私がやりたくない事は紬がするし、紬がやりたくない事は私が行う。」
「…違えたことは?」
「一切無いね。同様に『一緒にやりたい』と思うことは常に同じだ。」
息もピッタリな姿が思い出され、納得する国木田。
矢張り、似てないようで似ているようだ。