第23章 騙し、見抜かれ、騙されて
………。
「今……えっと……」
「口付け……キス……え?」
漸く敦と谷崎が混乱しながらも声をあげる。
国木田は頭を抱えて歩き出した。
慌てて2人も後を追う。
「アイツ等は異国人の習慣を取り入れてるのか?」
「あー……挨拶だッたのかな」
「成る程。紬さんの反応も薄かったですしね……挨拶代わりなら毎日してるのかも」
国木田の発言を聞いて、あまり深い関係だとは思わなかった敦と谷崎。
しかし、国木田は知っている。
2人が既に身体を重ねている程の仲だと云うことも。
2人が兄妹ではなく、互いを男女と見なす様になったことも。
そして
2人が恋人同士になったと云うことも。
先刻、紬だと思って話した会話と行為。
『気にし過ぎだろう』
そう云って紬に触れてみせた。
そしてあの後、紬…に扮した太宰が次いだ言葉は――
『前にも同じ事をして、同じ様な言葉を掛けた人が2人居た。一人はもう亡くなってしまったけど……』
と云うことはもう1人は健在なのだろう。
そして恐らく、その男は医務室で与謝野先生との会話で出てきたポートマフィアの重力使い……紬が『中也』と呼んでいた奴に違いない。
つまり、だ。
先刻の口付けは俺への当て付けだ。
抑も、あの日、医務室であの会話を聞く原因になったのも腹を壊したから。
『太宰が入れた珈琲を飲んだせい』で、だ。
「紬の依存も大概だったが、あいつの独占欲はそれを遥かに凌ぐほど尋常じゃないな」
「え?」
「何か云いました?」
ボソッと呟いた言葉を聞き取れずに聞き返す2人。
「いや、何でもない」
国木田は本日2度目となる長い長い溜め息をついた。